醜と美そして陰謀論、を物語る。

 
 美な弟の名は鉄である。以下テツと記す。
 醜き兄の名は錆である。以下サビと記す。

 テツとサビ、兄弟の名にふさわしいものがあるかもしれないその関連性。

 鉄に浮き出る錆、美しいものに付着しているように見える醜いもの。

 その傷んだ赤色、酸化した赤茶色、暗い灰みの黄赤、それが錆色。

 だけども名が逆で反対かもしれない。

 鉄と錆なら兄が鉄で弟を錆とした方が筋が通っているだろう。

 しかしそうはならない。何故ならサビのほうがテツが生まれた後につけられた名であるからだ。

 どういうこと? と思われるであろうから彼ら二人の兄弟が生まれる前の話から始めよう。

 つまりひとつの前史から物語が始まる。これは彼ら兄弟にとって後に神話となるものだ。

 醜と美そして陰謀論に関わる神話といえる。

 よって登場人物たちに名はつかない。テツとサビの名は出て来るがほぼそれだけである。

 第一章はそのように名ではなく役割によってそのものたちを呼ぶことにしているので以下ご了承ください。

 では、ある街に世界で最も醜い女がいた……またそれ? はいそれです。

 ご想像通りに彼女はサビの母であった。

 その顔ときたらサビとそっくりというかサビが母親似ということなのだろう。

 おそらく彼女の親もそうだし遺伝子の仕事をし過ぎの結果と言って良いぐらいでやはりこれは呪いでは? かつて遺伝子と呪いは同一のものとして扱われていたように。

 その酷い醜さをカバーするかのように……出来るのか? と心配する声も聞こえたができらぁ! ここから反攻!

 その身体の立派なことは見事なものであり長身かつ筋骨隆々で体重も100キロ超えとまさに巨漢! 女だが巨漢。体重も三桁超えは才能であり二桁は痩せ型として扱われる角界な次元。

 これで男であったらどれほどの立派な戦士になりゆくゆくは将軍になれたか分からぬほどの屈強な偉丈夫であった。

 そうか、この世界は女戦士も女将軍もいないのか……という残念な予感を与えつつも彼女の仕事は姉の警護である。

 そしてその姉こそがテツの母であった。

 当然絶世の美女であり傾国の魔女だと後世伝えられてしまうほどの危険な美であった。

 片や光で片や闇、あちらは美でこちらは醜、こんなことは有り得るのかしら? 

 こんな似ていない姉妹とか理由があるはずだ! 

 ごもっともな感情でありすぐさま納得していただけるだろう。

 何故なら二人は義理の姉妹であり二人とも養女としてこの歓楽街の飲食店……花街の女郎屋で働いていたのであった。

 昔々のある日に女衒の男がこの店に来て二人の子供を売った。

 一人は今まで見たことが無いと女郎屋を経営する夫婦が感嘆するほどのどえらい別嬪であり、夫婦は自然と敬服して敬語で話しかけてしまうほどであった。こちらは僥倖。

 そしてもう二人めは今まで見たことが無いと女郎屋を経営する夫婦が震撼するほどのどえらい醜女であり、夫婦は自然と互いに抱きしめあい悲鳴をあげてしまう程であった。こちらは事件。

 僥倖には巡り合いたいが事件には関わりたくないのでそちらの方はお引き取りを願えませんか?

「だめだめ片方だけってのは無しだぜ。二人は抱き合わせでしか売れないよ。ほら昔話にあったでしょ? 美人な姉だけ嫁に貰ってブサイクな妹を拒否して帰らせたせいで人間は短命になった話がさ。つまり両方なんだ。真の栄光を得るためにはさ。こっちが欲しけりゃそっちも貰ってくれなきゃ困るぜ」

 ということで夫婦は二人を養子としてもらい受けほぼ同い年に見えた二人を姉妹とした。

 念押しするが義理である。

 良かった二人に血の繋がりは無くてという心の声が聞こえてきたが、そういうことでもある。

 もしも二人に血の繋がりがあったとしたら説明を求められるのだ。なぜこんなに両極端なのか?

 そこから話はややこしくなる。父母が美男と醜女の組み合わせだと理由を求められるし、だいたい遺伝子が混じったらもしかしたら美の部分が消えるかも。

 とか要らぬ心配が増えてしまい話が頭に入って来ぬかもしれぬ。

 そういうことなのだ、美と醜は交わり難しという思想が人にはある。

 一方の本人たちは外野の声になど耳を傾けずに淡水のようにまじわり合っていた。

 姉は妹を心から信頼しそして妹もまた姉を心から愛していた。

 ここには姉の美に嫉妬する妹というキャラは存在せず、また妹の醜さに嫌悪する姉などというものは存在はしない。

 競争などなく互い支え合う関係性が構築されていった。

 誰よりも強い妹に守られながら姉は心からの安心感に包まれていた。美とは花であり果実でありそして獲物である。摘まれてもぎ取られ狩られる対象でありいつだって狙われていた。

 醜い妹はその美の護衛もとい防人をしていたのである。

 彼女は姉の美を自らの誇りとしていた。たとえ自分がどれだけ醜くても姉と自分は血が繋がっているのだと。

 えっ? と声が聞こえてきたがそれもそのはず。さっきは繋がりはないと言っていたはずでは? と。

 二人を買った養父母がそう言いくるめていたのである。これは二人の美醜の極端さを嘲笑ってのことではなく二人の絆を深めさせるためであった。

 人身売買によって売られた二人の女の子を姉妹だとすれば逃げ出すことが一人で出来なくなるはずだと。

 人間の善意を利用しての悪事と言えばそうである。擬似姉妹制度とかもそういった働きがあるのだろう。

 そしてそれは支配するのにはとても効果的でもあった。他に寄る辺なき身となった二人は姉妹として互いに寄り添いながら生きていくこととなった。

 さすが長年にわたり人様の人生を喰らい続けただけある。夫婦仲も良い。悪事を行う共犯者心理が働くと互いに仲良しになるためこれぞ夫婦円満の秘訣であろう。

 この養父母は女郎屋の経営者らしく美しさが別格の姉は手塩にかけ大事に育ててやがて大金持ちに売って一獲千金を狙おうとし、醜くて怖い妹はその身体を活かし裏方仕事をさせて便利に都合よくこき扱おうと考えた。

 さて、時が経ち美と醜の姉妹は成人となった。お互いの特性を活かしに活かしたかのような両極端な姉妹となった。

 まず醜い妹のほうだが怖気を起こさせる顔色に目を逸らさせる凶相、そしてその屈強なる巨体。

 その声は地獄の鬼とはこう鳴くのかと本能と空間を震え上がらせるものである。

 そしてその全存在は美の結晶である姉を守るがためのものであった。その使命のためにこの妹は養父母を恐怖と暴力で支配した。

 つまり家庭内で当時50代の養夫婦の対し殴る蹴るの暴行を加えて脅迫し家の実権を握ったのであった。

 次回は女郎部屋の悪辣夫婦の罪の報いとかいう老人にありがちな思い込みの話へと続く。