醜と美そして陰謀論、を物語る。

 
 罠にかかったふりをする次男は長男に苦言を呈した。

 噂で聞いたが最近新王妃に会われたそうではないか、と。そこのところいかがでありますか?

 言い掛かりなため言い争いとなり次男は言葉少なにすぐさまその場を去るが、長男の怒りが収まらず三男にその思いをぶつけた。

 聞いてくれ弟よ! 自分にそんな根も葉もない言いがかりをつけられて大変に心外だ。

 まさかお前も俺がそんなことをしたんじゃないかと疑っていないよな!

 これに対して三男は背筋を震わせながら答えた。

 そんな疑いなんてないよ。兄さんが新王妃とあっていないと僕は心から信じているからね。

 当然である。彼はあんなに新王妃に会っているのだから長男が来ていないことは三男が誰よりも知っている。

 そもそもなんで糾弾されるのが自分ではないのか? 

 もしや次男は自分と長男を間違えたからこうなったのでは? と。

 そうだそれは事実であり言い訳不可能なことなのだ。いずれ二人から問い詰められて反省を強制させられる未来は近いうちにやってくる。

 けど自分は今更いまの行いを改めることはできない。もはや引き返す道を見失っている。前に進むほかはない。

 たとえこの先で苦しくて辛いことが起きようがこれは覚悟の上のこと。それほどまでに新王妃の美は真実なのだ。たとえ地獄に堕ちようが構わない。

 いま、この時だけが自分の人生で最高に煌めているときなのだから。そのきらめきに殉じよう。

 そんな決意のもと三男はいつ二人が来ても良いように身の周りのものを整えて待機していた。

 どのような罰も受けてたとう! だが自分は彼女の敵には絶対にならないと宣言するのだ。お兄ちゃんの暴力には屈しないんだからね。

 その日は何事もなくその次もそのまた次もである。あれ? と思っていると長男が哀しげな表情で訪問してきた。

 ついにきたか? やはり違った。また愚痴である。次男から責められたと。

 密告されたということはなにかやましいことがあったのではないのか? 調べさせてもらうとかなんとかかんとか。

 こう言われてまた押し問答だと。どうしてなのか? 見に覚えのないことをあれこれ責められるとか有り得ない。俺達はもう駄目なのか……と。

 いや、兄上。次男は間違えているのですし勘違いしているのですって。兄上がそのようなことをするはずがないと今度自分が説得して参りますからと。

 そう言うと長男がおお頼んだと言って嬉しそうに帰っていくその背中を見ると三男は本当によく分からなくなってきた。世の中はおかしな方向に向かっているというしかない。

 会っているのは実は僕のほうなんすよ。これって浮気相手を間違えられている悲喜劇っすねエヘヘ。

 しかしわざわざ犯人は自分だと明かす理由もないし、なんならこのままこの状態が続けば良いなと思いつつ三男は不安である。

 もしかしたら長男はああ言っているが会っているのではないのか? あの次男が根拠もなく粘着するのも妙だ。

 自分だって毎日行っているわけではない。それに長男は父に似て女好き。もしかして自分の不在の間を縫って……

「いいや来ていないがそれがどうした?」

 王にそれとなく聞いてみると即答である。

「どうしてもというのならまぁ考えてやるがな」

 まぁ分かっていたと三男は思う。王が会せるはずがないんだと。王の性格がなによりの証拠だ。

 長男みたいな若々しい偉丈夫タイプが新王妃を好きになったら困るのだ。特に自分の若い頃にそっくりな息子とか不安がMAXだ。

 新王妃も二人を比較したら一目瞭然なこの上位互換になびいて奪われてしまうという被害妄想……年老いたオスは若いオスが基本的に嫌いだが女絡みだと確実に憎悪する。

 若い男に自分の妻を取られるという物語に男は恐怖し、そうならないようにあらゆる手を尽くす。慈悲深くとも赤子を山に捨てるぐらいだ。

 悲劇オイディプスはその男に刺さる恐怖心を物語に取り込んでいるために普遍的な価値を持つ古典となっている側面もある。

 息子に殺され妻をNTRれる、ハハッ最悪。

 この三男という息子の中では最もひ弱に見えるものにだって本当は会わせたくはなかったのだ。

 よって若い男が老いた男に気に入られる方法は昔から決まっていて自分から女を老いた男に提供する、これである。

 奪うのではなく与えるという逆である。

 これは確実に気に入られるしそのおかげで将来的にその老いた男と同じ椅子に座ることができ今までの苦労の見返りとして、今度は若いオスに同じことを要求すればいい。

 権力という構造はだいたいこんな風にぐるぐると回っている。ただこういう女衒行為をさせられることに嫌気がさした部下に射殺・密告されたと言われる権力者もいる。

「何故そんなことを聞くんだ?」

 王の問いにそれは次男が長男に会っていないかと抗議をしているようで。なんだかそういう手紙が届いたようで二人は険悪な雰囲気になっているようで、と答えると王は首を捻った。

「誰かと間違えたのか? あいつは挨拶に来ていないがなぁ。それにしてもあれだな、あいつらも意地を張らずに来ればいいものを。俺はいつでも大歓迎だぞ」

 そんな気はまったく無い癖にと三男は思うもそれを口にはしない。いまのは隣の新王妃に対しての寛容さアピールだ、勘違いしてはならない。

 ならどうです、今度二人を誘っては、とかなんとか言ったら最後、以後出禁の刑に処せらるかもしれないのだ。

 まったく老人の執着心と欺瞞に満ちた醜い態度にはなんとも閉口するよと思うも、その隣の新王妃の輝きを感じるだけでその心は和らいだ。

 しっかりと見ずとも光が目に入れば御利益そのもの。

 これがあるからこそ王の機嫌を損ねても良いと三男は思っている。

 来れば来るほど評価は下がっていくが、それでも自分は……王位に就くよりもこちらのほうが絶対に価値のあること、生きることなのだと思ってやまない。

 さていつも扉の傍らに跪きその陰の闇に溶け込んでいる我らが醜女な妹はいまの会話を聞き、またその顔に笑みを浮かべた。

 計画通りグフフ! である。大成功! 長男と次男の間で亀裂が生じた。

 あれに引っ掛るとは次男はやはり平凡な男のようで良かった。

 けれども三男相手に何かをしている感じではないのが妙であった。

 怒りに任せて三男を叱責しキレた長男と三男の挟み撃ちという形となって次男が倒されても良かったというのに。

 するとこれはあれか。

 調べたら予想以上に三男がこちらに取り込まれているのが分かったために下手に手を出すのはやめたのだろう。

 彼はこちらの期待以上であるからあちらも見放したのだろう。私も逆だったらそうする。説得不可能であろう。

 そもそも三男というあまり戦力にならないものに固執するよりも、確実に脅威となる長男の離反を阻止したいためそうしたという見方もできる。

 それならば三男放置も合理的判断だ。私も納得しよう。

 この次男できる……うん? どっちだと妹は不思議な気分となった。

 あちらを見れば罠にかかった愚者で、こちらを見れば罠にかかりつつも被害を最小限にしようとする賢者。

 どっちなんだ? 

 ヒントはある。わたし、気になります、からの、わたし気づいちゃいました、実はあいつに……となるのかまた次回。