醜と美そして陰謀論、を物語る。

 
 見栄であるがこれが馬鹿にならないぐらい凄まじく人間の本質であるかのように人の生を支配する。

 しかし不思議なことだ。なんたってそうでないのにそうであるように他者に思わせたら幸福という底なしの空虚さだというのにこれに人は熱中してやまない。

 つまり張りぼてのおうちで良いし張り子の虎で十分なのだ。どういうことか?

 見た目が少し悪くてもちゃんと暮らせるおうちの方が良いし、屏風の虎には見た目は劣るが柴犬のほうが良いはずである。

 そうじゃないんだとその人は言う。そういうことではないんだと。人は舐められたらおしまいなんだよ坊や、とそういう方々は胸を張りながら言う。

 そもそもおしまいとは? 舐められたら明日の朝いちばんに一族郎党族滅させられて地上に塵一つ残さないようになるというのか?

 これがおしまいの定義かとたずねてもそうだよとは頷いてくれず、不機嫌な表情を見せて極端なことを言いやがってうるせぇと毒づくのがせいぜいだろう。

 なにを怒っているのやら、おしまいと言ったのはあなたじゃあないか。 

 そう、おしまいなわけないのである。ただ単に相手に軽く見られるのが嫌なだけである。

 見下される自分の姿に耐えられないし又は耐えてしまえる情けない自分を想像しそういう惨めさが嫌なのだ。

 自分が尊重されなくなる未来、これがおしまいの定義。そしてそんな自分になるのが許せないという未来に対する恐怖。

 これが全てであってそこに全存在を賭ける、社会的な存在である人間にしかない生存本能。

 そうじゃなくて舐められたら生存の危機なんだよと言う人もいる。 

 そもそも相手があなたの靴が汚れているだけでおしまいにさせに舐めて来るとかそやつは頭がおかしくないか?

 あいつの靴は汚れていたからはい一族郎党を族滅して良いよね? なんて言うはずないのだ。

 それは加害側のロジックであり付き合う必要などないはず。

 だが見栄を張るはそこはそうだと言っている。だっておしまいなんだし。どうぞ族滅させて塩を撒いといてくれと。根こそぎ、どうぞ根切ってくだされ。

 つまり相手の気持ちに支配されていると同時に自分の妄想と相手の心情を合体させている異常心理といっても過言ではない。

 少なくとも支配する側の心理であって良いはずもない。他者の価値観に支配されるのは支配者には相応しくない。

 さて妹は姉について悩んでいるように見える王を見て微笑む。

 いつものように闇に隠れて下卑た笑みを浮かべる。

 光の下であの笑みを晒したら人を恐怖死させて如何に彼女でも死刑させられてしまうからだ。

 彼女にはその自覚がある、だからこそ闇に紛れながら思う、ほらあんなに偉そうにしている王様が姉の心を想像して動揺しているよ。

 所詮はこの程度なんだといつものように満足気。もう王は姉に完全に屈服している。良い人に見せることに己の全てを集中している。

 実際に良い人である。なんという都合の良い人だろう。

 あと三人の王子さえ仕留めればこの世界は私たちのものとなるとかなんとか考えている。

 世界とは大きく出たが彼女にとってそれが認識できる世界のその全て。

 もう少しでその手中に収めることができるというもの。

 そして王は渋々とは見せないように鷹揚に三男を紹介するべく呼ぶこととした。

 新しい王妃に会わせる名目ではないために三男は召喚に応じてしまい、王の庭園を訪れると例の美が目に入るやいなや彼は死んだ。

 大袈裟ではなく彼は死にそれから生き返った。その場でただちに新しい彼となって甦ったのだ。

 人生の分岐点としてのこれ以前とこれ以後となる明白な点がここにあった。さようなら遊び人っぽい少年よ、はじめまして新しき青年よ。

 そう、いままで見たこともなくこれからも見ることのない美がそこにあり出会う。

 彼とてもこれまで美人は何人も見てきたが、これまでの美がいまここで過去のものとなるしかなかった。

 それらの名は全て忘れ去られ過去の遺物と化し思い出せなくなり覚えているのは今ここだけ。

 あなただけ。

 そんな三男の様子を王はつぶさに眺めながら心底不快感を覚えた。

 こいつ俺の女に欲情しやがってからに!

 彼は男のなかの男らしく自分の下卑た心情を他者に託したが、三男はその低次元どころではなかった。

 欲情を通り越して彼の純心は崇拝に昇った。あれ? それは王のと同じでは?

 違うのだ、断じて違う。三男には所有への欲求がない。ただそこにあるだけでありがたいという感覚となった。

 それは太陽に近い。触れられないし触れることはできない、見つめ続けることはできないしかといって見ないこともできない。

 だいたい姉も積極的に他者に関わるものではないうえにその存在を消せるわけでもないため太陽に近いかもしれない。

 三男はこの新王妃と口を利かなかった。利けるはずがないのだ。誰が太陽に話しかけるのか?

 目上の相手には自ら話しかけてはならない。問いには必ず答えるのが正しきマナーである。

 だから自然と王と三男の会話だけとなり、それは国政に関する講義となるが彼はそれで大満足であった。

 むしろ会話する方が困るといっていいだろう。尊敬する相手と会話は実はあまりしたくない。イベント会場で贔屓にいきなり話しかけられたら困るのだ。

 王も新王妃に国の話をし簡単な講義を行っている。決して若い二人だけで会話をさせないように場を回すが三男はむしろ大満足。

 あの方が誰かと楽しく会話をしてくれているのを背景となって見ているだけでいいし、なんならただそこにいてくれるだけでいい、ひとつの愛の完成形という境地に彼は至っていた。

 歳の頃16歳、そういうことが可能な歳でもある。ここで思い出したので書き記すと、三人の王子の年齢は長男が20歳で次男が18で三男が16歳あたりである。

 さて、そういう境地を王は気づ……気づかない。気づくはずもない、ここは人生経験の差が悪い方に働く。

 こいつ俺の女をチラチラ見やがってからに! 見てない? 嘘つけぜっったいに見ていたぞ! たしかにお前は見ていないが見ているに違いない! 見ていないはずがないだろ! お前は俺の息子なんだから女好きの助兵衛さんに決まってんだからな!

 このしょうもない疑心暗鬼で陰謀論に両足から全身を突っ込んでいる状態。

 王は人に見せたら取られるしイタズラされると信じて疑わない子供みたいな心理のもと三男と会話をし、やがてその座はお開きとなり三男は大満足のもと帰る。

 山頂から太陽の光を浴びてから下山するかの心地であろう。

 それで王は聞きたかった、王妃の口からあの人は感じの悪い人ですね、とか、私のことをチラチラみてばかりでイヤらしい人ですね、とか退屈でしたね、とかとか。

 動揺する俺の心を宥めて欲しいどうかあの男を好きにならないでくれ! 嫌っておくれ。

「とても楽しいお時間でしたね」
「うむ、そうだったな」

 新王妃の感想に王は引きずられた。もうそういう段階になっている。

 反対意見が、言えない。一緒に食事をして自分がイマイチ美味しくなくても相手が美味しいといったら美味しいと感じてしまう現象。

 愛と服従のワンセットである。

 さっきまであれほどまでに悪口を聞きたかった王の心は彼女の感想によって彼方に吹き飛ばされた。

 自分の気持なんかよりも彼女の気持ちの方を優先すべきだという王の愛ゆえに三男は度々招かれることとなった。

 というかしょっちゅう自分から来る始末であり、言い訳御無用なぐらいに三男は完落ちし妹の計略は成功となった。

 さて、次の手は? 長男と次男、どちらにしようかな? また次回に。