王は彼女を愛し赤子を愛し二人の王妃も良き友であった。
そんな日常を眺める妹は完璧だとその光景に満足している。
自分の理想とする世界が作られていっている。ゆくゆくはあの赤子が王位に就く、それが自分の世界の完成でありその日まで自分は全てを捧げる。
自分の息子もそうだ。お前がいるのは姉の子のためなのだ。それ以外のなにものでもない。
この自分がそうであるのならその息子もそうである。そうでないといけない。何故ならお前は私の息子だからだNOとは言わせない。
仕えるものになれ。それがいちばん偉いのだ。
まるで機械のように奴隷のようにそして支配者のようにその子に全てを捧げろ。
よく仕えるものはよく上に立つことができる。これは逆説ではなく事実である。
さて、と赤子を可愛がる王を陰から眺めながら妹は思う。
例の王子たちがどう出るのかを。王のあの様子では後継者はあの子に決定しているが王子たちにはそうだとは伝えていない。
言を濁しているようだがあの王子たちはその言葉を信じていないだろう。
これまで一度も姉とも赤子にも会っていないということは敵意のなによりの証拠。
実際に会ってみれば良い人だったというように会うと会わないとでは印象は雲泥の差となる。
敵とは会ったことが無いとより邪悪さが増していく。己の悪意と想像力が加味されて実態からかけ離れたものとなる。
王の庇護下にあるうちは安全であるがそこから離れたらなにをされるか分からない。
ここで取るべきなのは……先ずは一度顔を会せておくことかと妹は思った。
姉の美と人徳に触れさせれば良からぬことを考えることにセーブが掛かるであろうし、仲間にもなろう。
現に王並びに第二第三王妃は姉に仕えるものとなったし、その可能性が高い。
美とは人を魅了してやまないのだからな。それを警戒して口実を設けて会わないということなら、かなりの有能と見なしていいだろう。
だが三人が三人有能とは限らないというかそれは有り得ない。
三人いれば有能平凡無能になるに決まっている。これは相対的な話である。
身長の話と同じなのだ。190cmと180cmと170cmの三人がいるとしたら170cmが一番低身長になる。
世間の平均(優秀)が一番下になるのが組織というものであり人間関係というものだ。
しかしこの三人は三人合わさっているからこそ脅威と言える。
たとえばの話、ここで三人の身長を足して計540cmは圧倒的な高さであるが、ここから無能一人が抜けたら370と戦力が下がるしおまけにもしも170cmとも戦うこととなったらさらに低下する。
ここで平凡と無能の二人をこちらに引き込めればどうなる?
190対350となるではないか。これぞ内輪揉めの典型であり如何に190が本当は250であり、平凡無能を合わせてもマイナス効果が働き100を引いても互角となる。単純化すると250対250となる。
狙うのはそこだ! 赤子が大きくなるまでに自分がするべきことはなにか?
脅威の除去であるがこの王宮の外にいるため会えないという環境下で実力行使は不可能となれば策を取るのみ。夷を以て夷を制す、王子を以て王子を制す!
それなら有能を先に除去すべきでは? そんな声も聞こえるがあまり得策ではないだろう。
リスクがでかいし他の二人と同時に戦うこととなる可能性が高い。これは仕事の優先度と似ている。
大変なのから始めるか簡単なのから片付けるか。
考え方の違いだろうが大変なのから始めてすぐに片付くのならそうしたらよいが、手こずって片付かずそのうえ簡単なのが後半になって苦しめて来るものとなったら後悔することとなる。
最後まで残った定食の漬物や味噌汁みたいなものである。最初に食べればすぐに済んだが最後に食べるとしんどいやつ。
そうであるから妹は先ず無能の排除及び引きずり込む策を取ることとした。
さて誰が無能かな? こいつだとすぐさま目星がついた。三番目である。
また三男いじめかと声が聞こえてくるがそうなってしまう。仕方がないのだ。歴史的に三男は厄介ものとなりがち。
いくら三人が平等に後継者だと言っていても上二人に比べて自分はとなりがちとなる。
常に上二人から圧をかけられる。お前は俺よりも下だと。そして本人も自然にそう思ってしまう。
子供の頃の年齢による体格差はそれほどまでに心理的な影響を与えてしまうのだ。
ここで三男には二つの道がある。反骨精神を剥き出しにして天邪鬼となって兄たちに対抗するか。
こちらは物語の主人公になりやすく上京して出世するかよく昔話では賢い三男役を与えられる。
もう一つの道は兄二人に仕えるものとなりひたすらに忠勤する。
こちらはもちろん物語の主人公になどなりえずに悪役の小物としてやられ役となってしまう。
だからこそ妹はまずはこいつに決めた。足並み揃えている時点で二人の兄の子分であろう。
小さな一角であるもここを崩せば敵の三角形は崩れグズグズとなってしまうのだ。
計略開始である。姉から王に働きかけてサプライズ的に王は自らの新王妃を三男に紹介することになった。
「そうだね。みんなからお前を隠していると思われるのは心外だしね」
心外ではなく内心では王はこの美しすぎる王妃を隠していた。極論、自分以外の男には見せたくはない。
本気の場合だと男はそうなってしまう。フランスにはこういう諺がある。
財布と女房は他人に見せびらかすな。見たら借りたくなるだろう、と。
けだし名言であるがフランス人って……になるがそれはともかく男はそれいいな貸してくれよ、と頼まれたら貸すのが友情だという価値観がある。
貸したり与えたり奢るのが美徳という価値観は女と比べればかなりある。
例えば女同士でバックの貸し借りは基本的に嫌がられるし非常識寄りで断るのが正しいが一般的かもしれない。
ましてや夫を貸してはもっと特殊だろうに。だからこそいくらでも見せびらかすし自慢をする。
借りられる心配がないなら存分に見せた方が得だ。盗まれることはよくあるが。
だが男の場合は貸し借りを大事にするために良いものはあまり見せないようにしている。
女と子供を家の中に閉じ込めたがるのもそういった心理が働いているのだろう。仲間うちで家族の話をする場合は基本愚痴で良い話は滅多にしない。
女房自慢とかするのはやましさや怪しいさのある男の可能性が高い。
良い車だな、今度乗せてくれよというぐらいが適切な人間関係なあたりだろう。
良い女だな、今度……は相当に踏み込んだ関係でもはや女を経由しての男の恋愛と同じである。
ということを王は知ってはいないが感覚的に理解しているので息子たちにも紹介したくはなかった。
なんたって王子三人は美男子であるからだ。長男は体格が立派なキリッとした剛直漢、王の若いころにそっくり。次男はスラッとした痩せ型のインテリ的な風貌と母親似。そして三男は少年くささがまだ残る遊び人っぽい両親の間の子のような感じ。
三者三様の青年王子たち。そして美中年である王の不安で心がいっぱい。
自分の新しい王妃は王子たちと年齢が近いのだ。
歳が近いもの同士が仲良くなるのは必然でありそればかりは王の権力をもってしても防ぐことはできない! 若いものには負けられない、と豪語したいが負けてしまう。
若さと美はなんという強さであろうかと王は自分の無力さを嘆いた。無いのは力でなく若さだから無若さを嘆いたになるか。
そう、王は若さに執着している。王は新王妃の若さと美を通じておのれの老いに気づきそして真に醜くなった。
男は女を通じてでないと若さを理解出来ずに得られないという最悪のケースのひとつ。
次回はその老いの哀しみを見てみよう。



