醜と美そして陰謀論、を物語る。


 こうして王室に受け入れられた美の姉だが、あの例の第一王妃はそれを許可したのか? そこの経緯を見てみよう。

 妹の暴行による気絶から目覚めた王妃は事の成り行きを聞き恐慌を起こした。

 もしもあの女がこのことを王にばらしたらどうなる!?

 これ幸いと第一王妃から降格させる良い口実になってしまうではないか!

 しかしそんな心配は起こらなかった。妹はあのことを姉伝いで以て王には喋らなかった。

 これは妹の策であり無言の脅しである。もしもこれ以上こちらに手出しをするのならあのこと話すぞ……これである。

 妹は姉経由で第一王妃のお出迎えを受けたと説明した。

 王の身体は強張った。何もするなと言ったのにあいつは! いい加減追い出してしまおうか?

 なにかされたかね? されたはずだ。あいつは君の若さと美に嫉妬しているに決まっている。

 しないはずがない。したかしなかったかの問題ではなく、何をされたかが問題なのだ。

 あいつのことだきっと想像の斜め上的な嫌がらせをしたのだろう。恐るべき策士なのは知っている。さぁ詳細を教えてくれ。

 君の言うことなら何でも聞くからね。

 このような王の問い掛けについて何も無かったと姉は告げた。

 王は信じられないという顔をしたがここで庇う理由が無いというかむしろ有ること無いこと……いいや、有ることのみ有るのだとなんでも王妃に被せてやればいい。

 それをしない? 普通だったらライバルというか邪魔ものは排除すればいいのに……いいや、己が間違えていた。

 どす黒きこの王宮のなかの権力闘争の汚れに塗れて暮らすうちに彼女のような清純な発想にすぐ辿り着けないものだ。

 たぶん第一王妃は皮肉たっぷりに嫌味を言いまくったのだが清い彼女には悪意が届かなかったのだ。

 そもそも悪口は近いもの同士であるから通じるところがある。

 自分よりも明らかに劣る頭の持ち主から馬鹿呼ばわりされるより、自分と同じぐらい頭の悪いものに馬鹿と呼ばれると頭に来るのと同じことだ。

 争いは同じレベルの間でしか起こらない。闘うに相応しい相手であるからこそ闘争となる。

 またひとつ君が素敵になったと王は喜んだ。王妃の嫌味や皮肉を無効化する高レベルな心の持ち主かつ自分の有利になるとしても嘘をついて政敵を陥れない高潔さ。

 王は大満足だが王妃は不安でいっぱい。いつバラされるのか? 今日か明日か? きっと最適なタイミングでやるはずだ!

 策士策に溺れるという言葉のように人は自分の得意分野によって失敗しがちなのだ。

 短所で人はしくじることはしくじるがそれは致命傷にはなりにくい。

 短所を短いナイフとしたらそれはよく身体を傷つけるも痛いだけで済むことがだいたいだ。

 そしてその短いナイフを利用してあれこれしようとは考えない。頻繁にチクリと嫌な痛みを感じるのみ。

 そうであるからこそ長所は本人に致命傷を与え破滅をもたらすといっても良い。

 長所を長い剣に例えれば、これがあればなんでもできるしあれこれしたくなる。その得物を用いて様々なことを試して大得意となるだろう。

 しかしその長剣が災いし誤って身体を貫いたらただ一刺しで絶命待ったなしだ。

 そこは短いナイフとはわけが違う。得意分野でこそ気を付けるべきなのだ。

 人は短所ではなく長所によって滅ぶ。剣を取るものは剣によって滅ぶ、というキリストの教えはそういった解釈も出来よう。

 そして王妃だが策士であるために深読みをしてしまう。それも悪い方向にである。

 特にこの件に関しては敗北をしたわけだ。よって相手は自分よりも上かもしれない。

 だったらこうするはずだしあれはそのつもりだったはずであるしまたは更なる策をあちらは練っているかもしれない。

 どうして? そんなのは決まっているあいつらはこの自分を破滅させるための陰謀を練っているのだ。

 ここできました陰謀論。

 敵の思考を想像すると高い確率で脅威論となりがち。

 そもそも恐怖と脅威を覚えたからこそ思考するのであって敵が安全ならわざわざ考える必要はない。

 足下の猫や犬またはゲージのなかのハムスターが自分に危害を加える陰謀を企んでいるとは誰も思わないが、仲の悪い隣人や外国は何か企んでいるのではないかと思うのが人の常。

 そして思考はエスカレートする。策士であるからこそ頭の良さを用いてあれこれと最悪の事態すら想定内にいれてしまう。

 頭が良く賢いからこそのシュミレーションの暴走である。短絡的思考の持ち主ならここまでは辿り着けない。

 するとどうだろう、その出来上がった敵像は異次元のバケモノとして頭の中に姿を現すのだ。

 ただでさえあの怪物はそのまんまバケモノなのにこれでは魔王である。

 どっどうすればいい? どうしたら……王妃は逃げを打った。別荘あたりに行くとしよう。

 三十六計逃げるに如かずという名言そのまま、敵わぬ相手とは避けるという方向が取られてからの王妃の身のこなしの速さは一級品である。

 なんといっても自分がいなくなったら様々なことが困るはずだろう。

 自分は第一王妃であり王宮の色々なことを知っている。自分の代わりなどいないのだ。

 そのうち教えてくれと泣きを入れて来る筈とかなんとか。おまけに第二第三王妃が第一になろうと三つ巴の戦いとなる。

 ふっお互いに醜く争っていればいい。

 そんなことはちっともなかった。第二第三王妃はすぐさま新参王妃を大歓迎した。

 これには妹も驚いた。これはどうなっているのかと? 読者の方々はお分かりだろうが彼女らの敵は第一王妃ただ一人である。

 あいつから受けた数々の屈辱。それを晴らす手段として最適なのが新参王妃を第一にすることにあるが最適だと判断した。

 争いはあいつに利するとは先刻承知。それに第一王妃は自惚れていたが第二も第三も宮廷のことはよく知っていた。

 足りない部分は二人の知識を共有させればなんとかなるし、王宮の人たちから話を聞けば事足りる。

 人は自分こそこの職場で一番仕事に詳しいと自惚れやすい性質を持っているが、そういうのは殆どあり得ない。

 すぐに代替が可能であるしその人しか知らないというものはごく限定的であり、しかもそれはそれほど有用性のない些細なものである。

 みんなが知らないこととは逆説的に知らなくて良いことでもある。

 まぁ知っていたらそれはそれで役に立つが絶対に必要かと言えばなんとも……その人が思う程には重要ではないのだ。

 自分がいなくなったら組織がガタガタとなり崩壊してほしいという願望は、自分のかけがえの無さを認識して欲しいという祈りでもあるが、そうはならない。

 働きアリがいなくなったら遊んでいるアリが新たな働きアリとなるように社会や組織はそうやって上手い具合に成り立ってもいる。

 だからその事実を認めたくなく組織に依存していつまでもその地位にしがみつくものはすぐさま老害と化してしまう。

 老害とは権力を保身にのみに用いる存在であるので正しくこの定義に当てはまる。

 そういうことで第二第三王妃はこの新入りと仲良くすることとした。敵の敵は味方であるために二人はすっかり距離を詰めてくる。

 おまけになんという美人だと! 女は美女好きでもあるために二人の彼女の教育係りともなった。

 立派な第一王妃に仕立てあげられればあいつの鼻を明かせる! 状況は第一王妃の立場の悪化に繋がった。

 これぞ身から出た錆であり全ての元凶は第一王妃の糞そのものな態度からであった。

 わざわざ敵を作り策を弄す、これぞ頭は良いが心が悪いと全部失敗するという好例といえるのであった。パートナーには良いがリーダーにしてはならないタイプよ。

 こうして姉妹にはひとまずの脅威が去り王と彼女は仲睦まじい関係を深めていった。

 それはとても幸せなものだった。そう二人は幸せである。幸せというものは描写する必要が無いのだ。

 物語にはならない。物語とは往々にしてその幸せに危機が訪れる少し前から始まるものだし、その物語の終わりは幸せになりましたで終わる。

 これは誰も他人の幸せを見たくないとか興味が無いといった意地悪な話ではなく、物語に展開が無くなるからである。そう何事もないのなら何事もなかったと書くのが正しい。

 そして約一年後、姉は子を産むこととなった。これがテツである。

 そしてこの赤子の誕生によって三人の王子達は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を……いや違う、誘惑の術 ( テンプテーション )で以て王を籠絡する妲己を……いや、妲己ではないな、そうだ傾国だ、かの傾国を除かなければならぬと決意した!

 三人の王子たちとの権力闘争が近づきつつある、また次回に。