醜と美そして陰謀論、を物語る。


 妹が一言を告げると自然と人垣が割れていった。いまの一言でその場にいるほぼ全ての男達は怯えたのだ。

 顔で肌色で身体でそして声によってそこにいるものたちは理解させられた。「理解された」と書いて「わからされた」と読むのは新しく美しい新語。

 そう、こいつには勝てないと。如何に愚か者でもその一点はしくじらない。

 特に彼らはチンピラでヤクザだ。その点はしくじらない。弱きを挫き強きを助け続けてきたならず者のゴロツキ人間のクズ! 強いものには逆らわないと脳内インプットされている存在。

 とある世界チャンピオンはインタビューに答えた「俺みたいになりたかったら自分より弱いやつと戦い続けろ」と。

 敵を見誤らない、そこもまた経験であり思考であり技術でありそして強さと言える。

 歴戦のつわものとは雑魚狩りが得意な雑魚専とも言えよう。だから本当のところ勝利や強さとはあまりカッコいいものではないのかもしれない。

 むしろ最多勝よりも最多敗の方が凄味はある。それはしくじるも挑戦し続けた証明でもある。傷痕とは勲章も同義。

 まぁしかしだ、しくじったものは若いうちに早々とこの世から退場させられているため長くは続けられないという哀しみ。

 さて自分達の叶う相手ではないと諦めているチンピラどもの中で、一番後ろにいたものが妹達の進軍に対して通せんぼをする。

 死に急ぐのか! といった男達の視線のなかその若人は胸を反らして腕を広げている。

 恐怖を汗とアドレナリンで鎮めている彼の頭のなかはこうだろう。

 ここで止められたら俺一人の手柄であり一番上に行ける! 何者でもないことに焦る若者らしい賭けだ。

 この怪物を倒したら俺は何者かになれる!

 それは間違いなくなれるし高みに行けるであろう。そうだ一番上にはいけるだろう。

 これから行くのだ。

 一閃! 

 予備動作無しから放たれた妹の右ストレートが彼の左顎を貫きその身体は宙を一回転しそれから地に落ちた。

 彼の意識は一番上まで行ったはずでそれから真っ暗となった。

 砕かれた敗北者、彼はそれになった。何者かになりたいものの末路、ここに極まれり。

 その場にいた男たちは全員一歩後ずさる。

 人間業ではないと。あそこからの問答無用の一撃! 

 しかも溜めも助走無しでいきなりフルスロットルな一撃を放てるだなんて!

 おまけに全く躊躇が無い! やはり人間ではないんだ!

「お前たちに伝えておく」

 妹の言葉を男達は口を締め耳を澄ませて聞く。こいつら普段はふざけてうるさいのに強い大人の前だと静かになるのがムカつく。

「雇い主に言っておけ。私たちの邪魔をするのなら全力で潰すってね」

 分かりました! とは声に出さないが一同はそれを胸に刻み込んで馬車が門の中に入っていく後姿を見送るしかなかった。

 かくして王宮中に今回の件が広がった。

 ただし王の耳には入らない。そのために話は盛りに盛り上がった。

 怪物みたいな妹が男達を全員ボコボコのめっためたにして次はお前だと脅してきただと!

 当然内容は盛られた。無理もない。ビビッてしまい一人を除いて何もしませんでしたでは済まされない。

 何もしませんでしたでは何のために飼っているのか分からない。

 だから彼らはわざと服を汚し自傷行為をして自らの身を荒らして皮肉にも体裁を整えてから王子たちのもとに向かったわけだ。

 自分をよく見せたいだけのものたちの本領発揮。ホラ吹きの名手たちによる腕の見せ所でもある。

 話を組み立てるのだ。あれが如何にヤバい怪物かということを。

 素のままで伝えても十二分にヤバさは伝わるがもっともっと盛った方が良いのだ。

 話と蕎麦は盛った方がみんな嬉しい。

 そうすればそうするほどじゃあ門入りを阻止できなかったのは仕方がないねで済む可能性があるからである。

 そのおかげで効果はてき面であった。

 筋肉もりもりのゴリゴリマッチョな変態巨人女が男たち全員を投げたり押し潰したり蹴っ飛ばしたり抓ったりと、さながら鬼神の如き暴れっぷりを披露していったと。

 この傷を見てください! 俺は根性出して頑張ったんすよ!

 王子たちは震えた。なんという怪物だ! 例の新入りの女はそんなものを飼っているのかと!

 これはいわば子分たちの保身が姉妹に有利に働くという利敵行為でもあった。嘘という自己保身とは事態を悪化させるものであるから正直者を罰してはならない一例。

 あの妹の毅然たる一撃は王子たちの心への一撃ともなる。よって結論はしばらく様子見でいこうかとなった。

 王子たちの心配ごとであるが、それは新たにきた女がもしも男の子を産んでしまったらどうするのかということだ。

 彼らが掴んだ情報によると恋愛脳になってしまった父である王が君の子を後継者にするよと誓ってしまったらしいと。

 冗談ではないと王子たちは憤慨した。三人は三人で後継者レースのプレッシャーの中にいるというのに、新たなるライバルが増えては堪らない。

 しかも後継者宣言しているのだから揉めるのは必定だ。

 なんとしてでも止めなくてはならない。だがと、彼らは思考にもセーブが掛かる。

 必ず男の子を産まれるとは限らないと。女の子かもしれないしまたは子が産まれないかもしれない。

 王も結構な歳だ。そう都合よく子を宿せるとは限らない。

 また女王を特例で許可しようとしたら全員で反対したらさすがの王もこれは覆せないだろう。

 確率を考慮したら確率は三分の一程度である。そのうえ飽き性な王のことだ。

 今回の件も気まぐれかもしれない。所詮は父の彼女あたりで話は収まるかもしれぬ。愛人なら結構結構ご勝手に。

 愛人の子は後継者になれないのだ。

 少し様子を見るか……という妹の暴力の報告について腰砕け的で楽観的な結論に落ち着いた三人の王子。

 一方で王妃側にとってはこれは切実な問題であった。

 まさかどこの馬の骨か分からない田舎女を私に代わって第一王妃にしたいだなんて!

 次回は王妃の計略である。