セントリリー学園に転入して、一週間が過ぎようとしていた。
休日の1日ってあっという間だなぁ……。
今日は、転入してからはじめての日曜日。
平日は、学校があるから寮に住んでいるけど、
土日のお休みは市内にある実家に帰ることにしている。
パパとママに元気な姿を見せとかないと心配しちゃうからね。
実家から寮へ向かうため、町の商店街をとぼとぼ歩いていると、
「ん……? なんだろ、あの人……。」
コンビニの前に不審な人物がいる。
真っ黒なキャップに、サングラス、黒Tシャツに黒ズボン。
全身真っ黒すぎてかなり目立っている。
身長は私より少し高いくらいで、髪が長くて、スタイルが抜群によくって……。
あれれ、もしかして、この人って……。
私は一度見た人や物をよく覚えている。
うん、やっぱり間違いない。
でも、急に声をかけるほど仲良くもないし。
私とは違う人種なんだと思うし……。
モヤモヤ……。
気になるけど、どうしよう……。
「あんた、セイラと話してた……?」
後ろから話しかけられてドキリとする。
(だ、だれ!?)
振り返ると、近くのツツジの並木から、スッと男の子が現れた。
「ひゃっ!」
「……静かに。」
男の子は素早く私の口を押さえると耳元でささやいた。
(な、なにこれ!)
動揺する間もなく並木の後ろに連れていかれ、その場に座らされる。
(か、顔が近すぎる……!)
高い鼻、キリッとした切れ長な瞳。
背が高くて、まるでアイドルみたいにカッコイイ男の子。
この男の子、確かセイラさんの執事さんだったような。
「俺の顔に何かついてる?」
「べ、別に……。」
あまりにも美少年すぎて見すぎちゃった……。
恥ずかしくて目をそらす。
それを誤魔化したくて慌てて質問をした。
「あの、こんなところで何してるんですか?」
「"はじめてのおつかい"を温かく見守ってる」
「はじめての、おつかい?」
私は頭の中にクエッションマークがいくつも浮かんだ。
「テレビで見たことない? 5~7才ぐらいの小さい子供が親から小さな買い物を頼まれる。"はじめてのおつかい"」
「ああ、見たことあります。小さな子供が頑張ってる姿がキュンとしますよね」
「そうだろ?」
「え、それってつまり……。」
「セイラは、今まで自分で買い物をしたことがない。生まれてからずっとお嬢様だから」
(ええー!!)
これにはかなり驚かされた。
「さすが大企業のお嬢様は違いますね」
「まあ、セイラの家は異常だけどね。小さい頃からずっと執事やらメイドやらがそばついて育ったから、外の世界にはうといんだ」
「なるほど……」
私も彼につられて、コンビニの前で右往左往しているセイラさんに目を向ける。
外からコンビニの店員さんをチラチラうかがっているが、目が合うたびにピョコンと頭を隠す。
ちょっとたつと、またチラチラうかがっては、ピョコンと隠すの繰り返し。
……なんだかカワイイ。
(それにしても、お嬢様も大変なんだ。)
隣の執事さんの視線は温かい。
まるで、親鳥がヒヨコを見守るような……。
2人の関係性にちょっと胸がじーんとする。
「そういえば、まだ自己紹介してなかった。俺の名前は、玉城優弥」
「私の名前は、市ノ瀬あかりです」
ペコリと頭を下げる。
「あんたの名前は前にも聞いたよ」
「ああ、そうでしたね」
ふと転入初日に白金さんに会って、この男の子に睨まれたことを思い出した。
あの時は、すっごく冷たい印象だった。
それに、今日は「あんた」呼ばわりって……。
そんな戸惑いがどうやら顔に出ていたようで、
「ああ、ごめん。こっちが俺の本当の顔」
くしゃくしゃと前髪をかき分けて、バツが悪そうに玉城さんが言う。
少し口が悪そうなのが、本当の玉城さん……?
「ええと……市ノ瀬さん、セイラと同じクラスだろ?」
「あっ、はい」
「じゃあ、俺と同い年だね」
「え、玉城さんも?」
「ああ、事情があって今はセイラの執事をしているんだけど」
ニッと笑った表情は確かに同い年ぐらいに見える。
でも、それなら玉城さんも学園に通わないのだろうか?
そんな心の中を見透かしたように、玉城さんは言った。
「俺、勉強は通信でやってるから」
「あっ、それなら良かった」
「……クスッ、他人の心配までしてくれて、市ノ瀬さんは優しいんだ」
なぜか玉城さんはそう言って、私の頭を優しくなでた。
(え、えええ――――っ!)
王子様みたいな玉城さんに頭を撫でられるなんて思ってもみなかった!
心臓がドキドキと早鐘をうつ。
えっと、前はギロリッと睨まれましたけど!?
今は普通に話しもしているし……、
まるで別人みたいな態度に拍子抜けしてしまう。
駄目だ、他のことに集中しよう!
私は、未だにこそこそとコンビニの中をのぞきこんでいるセイラさんが気になった。
もう、15分はああしてる。
これでは完全に不審者になってしまうかも……。
「あの、私、白金さんに声かけてきます」
「……いいの?」
ツツジの隙間から様子を見ていた玉城さんが、目を丸くする。
私はうなづくと、並木から立ち上がって、白金さんの方へ向かった。
「……白金さん、何してるんですか?」
「ひゃあ!」
猫がビックリして飛び上がるみたいな驚き方をされてしまった。
「ごめんなさい、驚かせてしまったみたいで」
私が素直に謝ると、白金さんはおずおずとサングラスを外した。
キレイなすみれ色の瞳が表れた。
やっぱり、白金セイラさんだ。
「ど、どうして、私だと気づいたの?」
「その、お嬢様のオーラはなかなか隠せないと思いますよ」
「えっ、そんなオーラ出てるかしら?」
白金さんは真に受けて、自分の腕やら足やらを眺めて首をかしげている。
その姿は、美しい日本人形みたいで。
(……う、仕草も、カワイイ!)
「あの、よかったら、私、アイスクリームを買いたいので、中で一緒に選んでくれませんか?」
よし、これなら変に思われずにスマートに誘えたはず。
「え? それは好都合……いえ、そうじゃなくて、もちろんいいわよ」
心の声までもれているけれど、そんなところも素直でキュンとしてしまう。
「じゃあ、入りましょ!」
「うん」
コンビニの自動ドアが開き、冷房のきいたヒンヤリした店内に入る。
私が先に進むと、白金さんも恐る恐るついてきた。
レジの店員さんが、「いらっしゃいませー」と声をかけてくる。
白金さんはそれに「ぴゃっ!」と小さく声をあげた。
店員さんに声をかけられてびっくりしちゃったみたい。
白金さんはお店の入り口で立ち止まってしまった。
みると、頬が真っ赤に染まっている。
はじめてのコンビニだもんね。
それは緊張しちゃうかも。
「白金さんも、アイス選ぼ!」
私は白金さんの手をとって、アイス売場まで行った。
「わぁ~! 沢山種類がありますね」
「本当に!」
アイス売場には、カラフルなパッケージのアイスが並んでいる。
「ソフトクリーム、チョコのモナカ、雪見だいふく、ピノ……どれも食べたくなっちゃう!」
「白金さんは、どんなアイスが好きですか?」
「わたくしは……、チョコレートのアイスが好きですわ」
「うんうん、わかります! 私もチョコレート大好き」
同じものが好きなのってなんだか親近感がわく。
2人でわいわいしながら、アイスを選んだ。
「わたしは、チョコのモナカ」
「わたくしは……チョコもいいのですけれど、ずっと気になってるアイスがあって」
モジモジしながら白金さんが差し出してきたアイス。
面が赤色のパッケージで、2つのアイスが入っている。
――雪見だいふく!!
「これ、食べたことがないですわ」
「ナイスチョイスです! 雪見だいふく、すごく美味しいですよ」
柔らかな大福のお餅に、甘いバニラアイスが絶妙なバランスで美味。
好きな人も多い超ロングヒット商品。
「そうなのですね。楽しみですわ……それに……」
白金さんは、チラリと外へと視線を送る。
その視線の先には、ツツジ並木があり執事の玉城さんが隠れているはずだ。
なるほど、白金さんもちゃんと玉城さんが見守ってくれていることを知っていたんだ。
「これ、2つあるから甘いもの好きの玉城も1つ食べれるかしら?」
2人はお互いを思い合っている。
美男美女でとってもお似合いで素敵なカップルだなぁ。
私はほっこりした気分になった。
「きっと、食べれると思います」
私とセイラさんはお会計をすますと、並んでコンビニを出た。
ツツジ並木に隠れていた玉城さんに、
真っ直ぐな瞳で買ってきた雪見だいふくを見せる白金さんの姿が微笑ましかった。
そして、少し目を潤ませていた玉城さんの顔も忘れられない。
