歯医者での治療を終えた二人は、並んで家路へと向かった。診察の疲れもあったが、隣にいるだけで心は穏やかだった。
翌日、敦子は事務所での打ち合わせを済ませて帰宅した。玄関を開けると、愛斗がすぐに出迎える。
「お疲れ様、敦子。またドラマの出演が決まったんだって?」
敦子は頷きながら、嬉しそうに報告する。
「それだけじゃないの。28日の歌番組に出ることになったの。吉田栄作さんと、35年ぶりにデュエットを歌うんだよ」
愛斗は目を丸くして驚き、声を上げる。
「え、本当に? 夢なんかじゃないよね?」
「うん、事務所から正式に連絡が来たの」
愛斗は胸の高鳴りを抑えきれず、続けた。
「俺、高校時代からずっと二人のことが大好きだったんだ。特に『今を抱きしめて』なんて、何百回も聴いたよ」
敦子はくすりと笑って、肩をすくめる。
「それ、何回も聞いたよ。あなたの口癖みたいになってる」
「それでも、俺もあのステージに立ってみたいな」
そう言った直後、愛斗のスマホが鳴った。事務所からの電話だった。少し話し込んだ後、電話を切ると彼の顔は明るく輝いていた。
「敦子、すごいことになった。社長から連絡があって、俺もその歌番組に出演することになったんだ。栄作さんと敦子さんのデュエットのあと、特別枠で歌うことになったよ」
敦子は驚きながらも、少し不安そうな表情を浮かべる。
「愛斗くんは演歌歌手で、昔から歌い慣れているから大丈夫だろうけど… 私なんて何年も人前で歌っていない。ちゃんと歌えるかな」
愛斗は優しく微笑み、敦子の肩を抱く。
「大丈夫、きっとできるよ。自信を持って」
「それなら… 愛斗くんからレッスンしてもらえる? 一緒にデュエットしながら練習したいの」
「いいのか? 俺でよければ、いくらでも付き合うよ」
二人はすぐに近くのカラオケボックスへ向かった。
最初に選んだのは、もちろん『今を抱きしめて』。前奏が流れると、自然と昔の思い出がよみがえるように、二人の声が重なり合っていく。
一曲歌い終わると、愛斗は感心したように拍手を送る。
「敦子、全然声が変わってないな。さすがだよ、まったく衰えてない」
敦子は胸をなでおろし、嬉しそうに笑う。
「久しぶりに歌ったけど、ちゃんと出せてよかったわ」
「本当にすごい。何年経っても、この澄んだ声は変わらないんだな」
「ありがとう」
それから二人は次々と曲を選んだ。デュエット曲も何曲か歌い、敦子は自分の持ち歌を披露し、愛斗もこれまで歌ってきた演歌を力強く響かせた。気づけば3時間が経っていた。
練習を終え、愛斗は「飲み物と軽いものを買ってくる」と言ってコンビニへ向かい、敦子は先に家に戻ってスマホを開いた。
画面には知らないアカウントからのメッセージが次々と届いていた。少し眉をひそめながら、帰ってきた愛斗に声をかける。
「ねえ、愛斗くん。関ヶ原っていう人から、最近よくコメントやメッセージが来るの。『会いたい』だの『大好きです』だの、似たような内容ばかりで… この人、何者なのかしら」
敦子はスマホの画面を愛斗に見せる。彼はその名前とプロフィール写真を見ると、一瞬顔を曇らせた。
「こいつか…」
「愛斗くん、知ってるの?」
「ああ、SNSでは有名だよ。TikTokなんかで、若い女性ばかりに声をかけてはナンパを繰り返してる奴だ。てっきり若い子にしか興味がないと思っていたんだが… 実は俺のところにも、匿名のアカウントから毎日『敦子と別れろ』って脅迫めいたメッセージが来てるんだ」
敦子は驚いて目を見開く。
「そんなこと、私に何も言ってくれなかったのね…」
愛斗は敦子を安心させるように、柔らかく唇を重ねてから、スマホを受け取って操作する。
「大丈夫、これでもう二度と連絡は来ない。全部ブロックして、通報もしておくから」
敦子は胸のつかえが取れたように、安堵の笑みを浮かべる。
「ありがとう、愛斗くん。いつも守ってくれて」
「どういたしまして。俺の大事な人だから、当然だよ」
夜の灯りの中、二人は手を取り合い、これから迎えるステージも、そして何が起きても共に乗り越えていく覚悟を、静かに確かめ合っていた。
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翌日、敦子は事務所での打ち合わせを済ませて帰宅した。玄関を開けると、愛斗がすぐに出迎える。
「お疲れ様、敦子。またドラマの出演が決まったんだって?」
敦子は頷きながら、嬉しそうに報告する。
「それだけじゃないの。28日の歌番組に出ることになったの。吉田栄作さんと、35年ぶりにデュエットを歌うんだよ」
愛斗は目を丸くして驚き、声を上げる。
「え、本当に? 夢なんかじゃないよね?」
「うん、事務所から正式に連絡が来たの」
愛斗は胸の高鳴りを抑えきれず、続けた。
「俺、高校時代からずっと二人のことが大好きだったんだ。特に『今を抱きしめて』なんて、何百回も聴いたよ」
敦子はくすりと笑って、肩をすくめる。
「それ、何回も聞いたよ。あなたの口癖みたいになってる」
「それでも、俺もあのステージに立ってみたいな」
そう言った直後、愛斗のスマホが鳴った。事務所からの電話だった。少し話し込んだ後、電話を切ると彼の顔は明るく輝いていた。
「敦子、すごいことになった。社長から連絡があって、俺もその歌番組に出演することになったんだ。栄作さんと敦子さんのデュエットのあと、特別枠で歌うことになったよ」
敦子は驚きながらも、少し不安そうな表情を浮かべる。
「愛斗くんは演歌歌手で、昔から歌い慣れているから大丈夫だろうけど… 私なんて何年も人前で歌っていない。ちゃんと歌えるかな」
愛斗は優しく微笑み、敦子の肩を抱く。
「大丈夫、きっとできるよ。自信を持って」
「それなら… 愛斗くんからレッスンしてもらえる? 一緒にデュエットしながら練習したいの」
「いいのか? 俺でよければ、いくらでも付き合うよ」
二人はすぐに近くのカラオケボックスへ向かった。
最初に選んだのは、もちろん『今を抱きしめて』。前奏が流れると、自然と昔の思い出がよみがえるように、二人の声が重なり合っていく。
一曲歌い終わると、愛斗は感心したように拍手を送る。
「敦子、全然声が変わってないな。さすがだよ、まったく衰えてない」
敦子は胸をなでおろし、嬉しそうに笑う。
「久しぶりに歌ったけど、ちゃんと出せてよかったわ」
「本当にすごい。何年経っても、この澄んだ声は変わらないんだな」
「ありがとう」
それから二人は次々と曲を選んだ。デュエット曲も何曲か歌い、敦子は自分の持ち歌を披露し、愛斗もこれまで歌ってきた演歌を力強く響かせた。気づけば3時間が経っていた。
練習を終え、愛斗は「飲み物と軽いものを買ってくる」と言ってコンビニへ向かい、敦子は先に家に戻ってスマホを開いた。
画面には知らないアカウントからのメッセージが次々と届いていた。少し眉をひそめながら、帰ってきた愛斗に声をかける。
「ねえ、愛斗くん。関ヶ原っていう人から、最近よくコメントやメッセージが来るの。『会いたい』だの『大好きです』だの、似たような内容ばかりで… この人、何者なのかしら」
敦子はスマホの画面を愛斗に見せる。彼はその名前とプロフィール写真を見ると、一瞬顔を曇らせた。
「こいつか…」
「愛斗くん、知ってるの?」
「ああ、SNSでは有名だよ。TikTokなんかで、若い女性ばかりに声をかけてはナンパを繰り返してる奴だ。てっきり若い子にしか興味がないと思っていたんだが… 実は俺のところにも、匿名のアカウントから毎日『敦子と別れろ』って脅迫めいたメッセージが来てるんだ」
敦子は驚いて目を見開く。
「そんなこと、私に何も言ってくれなかったのね…」
愛斗は敦子を安心させるように、柔らかく唇を重ねてから、スマホを受け取って操作する。
「大丈夫、これでもう二度と連絡は来ない。全部ブロックして、通報もしておくから」
敦子は胸のつかえが取れたように、安堵の笑みを浮かべる。
「ありがとう、愛斗くん。いつも守ってくれて」
「どういたしまして。俺の大事な人だから、当然だよ」
夜の灯りの中、二人は手を取り合い、これから迎えるステージも、そして何が起きても共に乗り越えていく覚悟を、静かに確かめ合っていた。
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