20年越しの初恋カメラの向こうの君と

次の日、敦子が家に来るというので、愛斗は朝から部屋中を丁寧に掃除した。
ソファのクッションを整え、テーブルの上を拭き、ゴミを捨てて、少しでもいい印象を持ってもらおうと、隅々まで気を配った。準備がひと通り終わった頃、玄関のチャイムが軽やかに鳴った。急いでドアを開けると、そこには待ち望んだ敦子が柔らかな笑顔で立っていた。
「こんにちは、愛斗くん」
手をふって挨拶する彼女を部屋の中に招き入れ、愛斗はリビングへと案内した。ソファに腰を下ろしてもらい、冷蔵庫から取り出して冷やしておいたカフェラテをグラスに注いでテーブルに置く。
「ありがとう、愛斗くん。とってもおいしいわ」
「どういたしまして。気に入ってもらえてよかった」
言葉を交わすよりも先に、愛斗は敦子の肩を抱き寄せ、柔らかく唇を重ねた。
短いけれど温かい口づけを交わし、二人は顔を見合わせて笑い合った。
「そうだ、見せたいものがあるんだ」
愛斗は立ち上がり、棚からビデオテープを取り出して再生機にセットすると、画面には学生時代の自分たちの姿が映し出された。文化祭のステージで、二人で並んでマイクを持ち、声を合わせて歌をデュエットしている映像だった。懐かしいメロディーが部屋に流れ、ステージの上で少し緊張したような、それでも楽しそうな二人の表情が、まるで昨日のことのように思い出された。
「ふふ、このときのことよく覚えてるわ。とっても素敵な歌だったもの。愛斗くん、昔から歌が上手だったのね」
敦子が優しい言葉で褒めてくれると、愛斗は頬を少し赤らめて照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ、緊張して声が震えてたくらいだったんだ」
話が途切れ、ふと視線が絡み合うと、言葉なんて何もいらないように、自然と体が引き寄せられ、再び深く唇を重ねた。
柔らかな時間が流れ、ゆっくりと体を離したとき、愛斗は思い切って口を開いた。
「そういえば、明日は俺の同窓会なんだ。敦子さんもよかったら来ない?」
「え、わたしが行ってもいいの? 皆さんに迷惑じゃないかしら」
「もちろんいいよ。むしろ、敦子さんのことを皆に紹介したいんだ。大事な人だって、ちゃんと知ってもらいたいから」
敦子は目を丸くして、やがて嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってもらえて、とっても嬉しいわ。わたしでよければ、ぜひ連れて行ってね」
こうして二人は、明日の同窓会に一緒に行く約束をした。それからはソファに並んで腰を下ろし、他愛もない話をしたり、昔の思い出を語り合ったりして、二人だけの時間をゆっくりと楽しんだ。夕暮れが部屋の中を柔らかく染める頃、敦子は愛斗に見送られて、自分の家へと帰って行った。
次の日、待ち合わせた場所で敦子を車に乗せ、愛斗は会場へと車を走らせた。一時間ほどの道のり、車の中でも二人は笑い声を絶やさず、会ったときのことを想像しては、どんな風に紹介しようかと話し合った。会場に着くと、駐車場に車を停めて降り、建物の中へと足を踏み入れた。
受付で名前を書き、来ていた同級生に、はにかみながらもはっきりと「この人が俺の大事な人、千沢敦子さんだ」と紹介した。
会場の中に入ると、懐かしい先生たちや、昔よく一緒に遊んだ友達たちが集まっていた。
愛斗は一人ひとりに声をかけ、敦子を紹介し、そして自分たちが真剣に交際していることを伝えた。
「実は俺、敦子さんと付き合ってるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、周りにいた先生たちも同級生たちも、最初は驚いて目を丸くした。
だが、二人が見つめ合う優しいまなざしや、幸せそうな笑顔を見て、やがて温かい拍手と笑い声が湧き起こり、皆は心から祝福してくれた。
「そうだったのか! 愛斗、よかったな」
「お二人ともお似合いだわ、ずっと幸せでいてね」
たくさんの言葉をかけてもらい、愛斗は一つ一つに丁寧にお礼を言った。
会は二時間ほど続き、昔の思い出話に花を咲かせ、皆で笑い合い、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
会がお開きになり、会場を出て駐車場に戻ると、誰もいない車の陰で、愛斗は敦子を優しく抱き寄せ、そっと唇を重ねた。柔らかな口づけを交わし、二人はただ見つめ合って笑い合った。
「今日は本当に楽しかったわ、愛斗くん。皆さん優しくて、素敵な人たちばかりだった」
「俺も、敦子さんを皆に紹介できて、すごく嬉しかった。ありがとう、来てくれて」
車に乗り込み、愛斗はゆっくりと車を走らせる。街の明かりが窓の外を流れていく中、二人は手をつないだまま、幸せな時間を噛みしめながら、愛斗の家へと帰って行った。