………
「いらっしゃいませ。お荷物、お部屋までお運びいたしましょうか?」
スーツケースを片手にロビーに立っていた男性にそう声をかけた。
男性は、小さく息を整えて「いいえ、大丈夫です」と柔らかく言った。
その声に覚えがあって、彼の目を見上げた瞬間、
あの時みたいにピンときた。
あの日、寂しげに「ありがとうございます」と言って背中を向けた、あのゲストだとすぐにわかった。
だけどその穏やかな声は記憶の中と同じなのに、言葉の輪郭は記憶よりもずっとはっきりしていた。
その違いが何なのか、わかりそうでわからない。
もう少し彼の言葉を聞けたら、わかる気がする。
だけど、ベルスタッフとしての私の仕事はこれで終了だ。
だから私は微笑んで「かしこまりました」と会釈を返す。
前とは少し違う彼の声色を不思議に思いつつも、彼から離れようとした時――
「あの」
彼に呼び止められた。
「はい」と彼を見上げると、彼はわずかに視線を彷徨わせた。
「えっと……あの、ぼく、前にもここに泊まったことがあって……」
何をどう切り出すか迷った末に、彼は遠慮がちにそう言った。
だけど彼が口にした日本語そのものは、前よりも迷いがなくて。
それなのに言葉を口にする前の、言葉を探す間はあの時の彼のままだった。
その一言で、記憶の中よりも言葉の輪郭がはっきりしていた理由がわかった。
「おかえりなさいませ」
「日本語、お上手になられましたね」
私がそう声をかけると、彼は少し照れたみたいに微笑んだ。
「日本語を学び直したんです」
そう口にした彼の言葉はやっぱり迷いがなくて正確だった。
だけど半年前も、彼は日本語が話せないわけではなかったと思う。
ただ、彼の口から出る言葉はどれも不安そうな色をしていた。
それが今は、発音も受け答えも、前よりも自信があるように聞こえた。
「短い期間ですごいですね」
気づけば、素直な感想がそのまま口をついていた。
「いらっしゃいませ。お荷物、お部屋までお運びいたしましょうか?」
スーツケースを片手にロビーに立っていた男性にそう声をかけた。
男性は、小さく息を整えて「いいえ、大丈夫です」と柔らかく言った。
その声に覚えがあって、彼の目を見上げた瞬間、
あの時みたいにピンときた。
あの日、寂しげに「ありがとうございます」と言って背中を向けた、あのゲストだとすぐにわかった。
だけどその穏やかな声は記憶の中と同じなのに、言葉の輪郭は記憶よりもずっとはっきりしていた。
その違いが何なのか、わかりそうでわからない。
もう少し彼の言葉を聞けたら、わかる気がする。
だけど、ベルスタッフとしての私の仕事はこれで終了だ。
だから私は微笑んで「かしこまりました」と会釈を返す。
前とは少し違う彼の声色を不思議に思いつつも、彼から離れようとした時――
「あの」
彼に呼び止められた。
「はい」と彼を見上げると、彼はわずかに視線を彷徨わせた。
「えっと……あの、ぼく、前にもここに泊まったことがあって……」
何をどう切り出すか迷った末に、彼は遠慮がちにそう言った。
だけど彼が口にした日本語そのものは、前よりも迷いがなくて。
それなのに言葉を口にする前の、言葉を探す間はあの時の彼のままだった。
その一言で、記憶の中よりも言葉の輪郭がはっきりしていた理由がわかった。
「おかえりなさいませ」
「日本語、お上手になられましたね」
私がそう声をかけると、彼は少し照れたみたいに微笑んだ。
「日本語を学び直したんです」
そう口にした彼の言葉はやっぱり迷いがなくて正確だった。
だけど半年前も、彼は日本語が話せないわけではなかったと思う。
ただ、彼の口から出る言葉はどれも不安そうな色をしていた。
それが今は、発音も受け答えも、前よりも自信があるように聞こえた。
「短い期間ですごいですね」
気づけば、素直な感想がそのまま口をついていた。


