天平恋詠~極道のお嬢が奈良時代に転生~病弱皇子を守って、この国、あたしが変えてみせます!

 父・不比等《ふひと》が静かに続けた。

「相手は――首《おびと》皇子だ」

 …………。

 え?

 おびちゃん?

 いや。

 首皇子《おびとおうじ》!?

 思わず顔を上げた。

 病弱で、線が細くて。

 でも誰より優しくて。

 本が好きで。

 穏やかで。

 あたしが転生してからも、何度か顔を合わせている。

 宮子《みやこ》さまのもとへ通うたび、ふらりと現れては、本の話をしたり。

 あたしの変な話にも、静かに笑ったり。

 熱を出して寝込んでいた時もあった。

 細い肩。

 白い指。

 笑っていても、どこか儚《はかな》い人。

(……おびちゃんか)

 胸が少しだけざわついた。

 母・橘三千代《たちばなのみちよ》が、やさしく微笑む。

「宮子さまも、お前を好いてくださっています。あなたが来るようになってから、笑顔が増えたと」

 その言葉に、胸が少し温かくなった。

 すると。

 宇合《うまかい》が、にやっと笑った。

「姉上、知らねえの?」

「……何が?」

「おびちゃん、姉上が来る日は、めちゃくちゃ機嫌いいぞ」

「え?」

「宮子さまのところに行くって聞くと、先回りしてるしな」

 房前《ふささき》が、静かに続ける。

「本を読むふりをしながら、ずっと待っている」

 ――え。

 ちょっと待って。

 それって。

「……たまたまでしょ?」

「いや?」

 宇合が笑う。

「完全に姉上狙い」