【第〇話 なに、この空気】
――なんか、おかしい。
不比等《ふひと》邸の空気が、朝からピリついていた。
いつも笑顔の雑仕女《ぞうしめ》たちが、全員そわそわしている。
香《こう》も、やたら濃い。
廊下では、侍女たちが慌ただしく走り回っていた。
「そこ、少し曲がってます!」
「床几《しょうぎ》をもっと右へ!」
「御簾《みす》が乱れております!」
たかが椅子の位置で三人がかり。
……うん。
これ、完全に《《そういう日》》だ。
あたし――光明子《こうみょうし》。
中身は元ヤン……じゃない。
極道一家育ちの元・中学生サツキ。
修羅場は見てきた。
怒号飛び交う親族会議。
組同士の空気。
警察沙汰寸前。
でも。
(こういう静かなピリピリが、一番こわい)
絶対、なにかある。
しかも――。
「姫様、今日は特にお美しいです!」
サチが朝から泣きそう。
怖い。
やめて。
死亡フラグみたい。
「……ねえサチ」
「はい!」
「これ、あたし売られる?」
「えええっ!?」
サチが顔面蒼白になった。
「そ、そんなことありません!」
その反応、逆に怖いんだけど!?
その時。
「――光明」
低く、落ち着いた声。
空気が変わる。
父――藤原不比等だ。
「こちらへ進みなさい」
きた。
完全に家族会議。
逃げられないやつ。
(よし)
腹をくくる。
あたしは背筋を伸ばした。
「はいはい」
返事は軽く。
でも足取りは堂々と。
ナメられたら終わり。
それがサツキ流。
御簾の向こうへ進む。
そして――。
(うわ)
圧。
圧が、すごい。
母・橘三千代《たちばなのみちよ》。
優しい笑顔。
その隣に父・不比等。
そして後ろには――。
藤原四兄弟、全員集合。
(うわ、フルメンバーだ)
武智麻呂《むちまろ》は腕組み。
房前《ふささき》は冷静な顔。
宇合《うまかい》は笑ってる。
麻呂《まろ》だけ、なんかワクワクしてる。
(絶対なんかある)
その時。
父が静かに口を開いた。
「光明――」
ぴん、と空気が張る。
「お前の結婚が決まった」
――は?
…………。
え。
結婚?
誰が?
あたしが?
十五歳で!?
――なんか、おかしい。
不比等《ふひと》邸の空気が、朝からピリついていた。
いつも笑顔の雑仕女《ぞうしめ》たちが、全員そわそわしている。
香《こう》も、やたら濃い。
廊下では、侍女たちが慌ただしく走り回っていた。
「そこ、少し曲がってます!」
「床几《しょうぎ》をもっと右へ!」
「御簾《みす》が乱れております!」
たかが椅子の位置で三人がかり。
……うん。
これ、完全に《《そういう日》》だ。
あたし――光明子《こうみょうし》。
中身は元ヤン……じゃない。
極道一家育ちの元・中学生サツキ。
修羅場は見てきた。
怒号飛び交う親族会議。
組同士の空気。
警察沙汰寸前。
でも。
(こういう静かなピリピリが、一番こわい)
絶対、なにかある。
しかも――。
「姫様、今日は特にお美しいです!」
サチが朝から泣きそう。
怖い。
やめて。
死亡フラグみたい。
「……ねえサチ」
「はい!」
「これ、あたし売られる?」
「えええっ!?」
サチが顔面蒼白になった。
「そ、そんなことありません!」
その反応、逆に怖いんだけど!?
その時。
「――光明」
低く、落ち着いた声。
空気が変わる。
父――藤原不比等だ。
「こちらへ進みなさい」
きた。
完全に家族会議。
逃げられないやつ。
(よし)
腹をくくる。
あたしは背筋を伸ばした。
「はいはい」
返事は軽く。
でも足取りは堂々と。
ナメられたら終わり。
それがサツキ流。
御簾の向こうへ進む。
そして――。
(うわ)
圧。
圧が、すごい。
母・橘三千代《たちばなのみちよ》。
優しい笑顔。
その隣に父・不比等。
そして後ろには――。
藤原四兄弟、全員集合。
(うわ、フルメンバーだ)
武智麻呂《むちまろ》は腕組み。
房前《ふささき》は冷静な顔。
宇合《うまかい》は笑ってる。
麻呂《まろ》だけ、なんかワクワクしてる。
(絶対なんかある)
その時。
父が静かに口を開いた。
「光明――」
ぴん、と空気が張る。
「お前の結婚が決まった」
――は?
…………。
え。
結婚?
誰が?
あたしが?
十五歳で!?



