――眠れなかった。
そりゃそうだ。
急に結婚。
しかも相手は――首皇子《おびとおうじ》。
未来の天皇候補。
なのに病弱。
しかも優しい。
(いやいや、急すぎん!?)
朝から心臓が落ち着かない。
サチに髪を整えられながらも、落ち着かない。
「姫様、今日は少しおしとやかに……」
「努力はする」
「努力!?」
サチが絶望していた。
ごめん。
無理かも。
通されたのは、不比等邸の奥座敷。
緊張感のある空気。
父・不比等《ふひと》。
母・橘三千代《たちばなのみちよ》。
そして、向かいには――。
(……うわ)
いた。
首皇子。
久しぶりにちゃんと見る。
やっぱり、綺麗。
線が細くて。
白い肌。
黒髪がさらりと落ちる。
どこか儚《はかな》くて。
なのに。
目だけが、静かに強い。
(奈良時代って顔面偏差値どうなってんの?)
思わず心の中でツッコむ。
「光明《こうみょう》」
父の声で我に返る。
「座りなさい」
静かに頭を下げる。
そして――。
気づいた。
おびちゃん。
めっちゃ見てる。
いや。
すごい見てる。
なんで?
そんな見る?
気まずい。
というか。
(近くで見ると顔良すぎない!?)
視線を逸らしたい。
でも逸らせない。
すると。
「……久しぶり」
先に口を開いたのは、首皇子だった。
低くて、静かな声。
「元気そうで……安心した」
その言葉が、妙に優しかった。
「え、あ、うん」
なんだろ。
空気が変。
前より、近い。
いや。
向こうが近い。
しかも。
なんか、すごく見てくる。
母が優しく微笑んだ。
「首皇子さま。光明は少々勝気ですが、根は優しい子です」
「知っています」
即答だった。
え。
ちょっと待って。
その間。
ほぼ、なかったよね?
すると首皇子は、少しだけ微笑んだ。
「困っている人を見ると、放っておけない」
静かな声。
「強く見えて……優しい」
――え。
なにそれ。
そんなふうに見られてたの?
心臓が、少しだけ跳ねた。
その時。
首皇子が、ふと視線を落とした。
「もし……迷惑でなければ」
一瞬、沈黙。
そして。
彼は、まっすぐこちらを見る。
「これから、少しずつ話したい」
やさしい目だった。
押しつけじゃない。
でも。
ちゃんと、待ってる目。
「あなたのことを……知りたい」
――どくん。
心臓が鳴った。
(え)
なに。
この人。
思ったより……破壊力高くない?



