真剣な芽依子の瞳に、遥希はしばらく何も言えなかった。
冷えていたはずのはちみつ紅茶が、もうぬるくなっている。
それなのに、胸の奥だけが苦しいほど熱かった。
近すぎる距離に甘え、芽依子の心の揺れを“いつもの甘え”だと決めつけていた。
――自分が一番、彼女の気持ちを見ようとしていなかったのだ。
「……違う」
掠れた声が零れる。
芽依子が、不安そうに遥希を見上げた。
遥希は、その視線から逃げるみたいに一度額を押さえる。 けれど、もう誤魔化せなかった。
「俺、守りたかったんちゃう」
「……え?」
「違う。俺が欲しかっただけや」
低く落ちた声が、静かな部屋に響いた。
芽依子の両手に自分のを重ね合わせる。
「めいを妹やと思ったこと、一回もない」
「ずっと、一人の女として見てた」
「せやのに、“はる兄”って立場に甘えて……お前が離れていかんって勝手に思っとった」
「ほんま最低やな……」
遥希は、自嘲するように小さく笑う。
芽依子は何度も首を横にふって、遥希を見る。
「はる兄……」
「花島に嫉妬したんも、めいが逃げたんも、他の男とおるん想像するんも……全部、嫌やった」
「気ぃ狂いそうなくらい、欲しかった」
遥希は芽依子の頬へ触れる。
壊れ物を扱うみたいに優しく。
けれど、震える指先には隠しきれない熱が滲んでいた。
「妹やないよ」
「とっくに、一人の女として欲しいねん」
遥希の言葉が、胸の奥へゆっくり落ちていく。
一人の女として欲しいという言葉を、自分に向ける日なんて来ないと思っていた。
ずっと隣にいたのに、ずっと欲しかった言葉だった。
芽依子は体中に電流が走ったみたいに甘く痺れる。
(思い出した……はる兄が言ってたの)
『自分から欲しいって言えるようになってから』
――『その時は、ちゃんとキスしたる』
芽依子の瞳が、ゆっくり揺れる。
あの日。
キスしかけた遥希は、最後の一線を越えなかった。
まだ言えなかったからだ。
欲しいと。
離したくないと。
妹じゃなく、一人の女として愛していると。
(あたしもちゃんと応えたい)
「好きだよ、遥希。……今まで以上に、もっとずっと確かな気持ちで」
「遥希が欲しい」
高揚した頬に震える唇。
でも芽依子は、愛しさがあふれた微笑みで遥希を見つめる。
「俺も芽依子が好きやで」
甘い囁きに鼓膜が揺れると同時に、ゆっくり触れるだけのキス。
ただ今度はしっかりと、互いがわかる心地で。
「結婚前提で付き合ってほしい」
「っ……喜んで」
芽依子の瞳から、また涙が零れる。
嬉しいのに、苦しくて、笑いたいのに泣けてくる。
やっと届いた。
初恋の終わりじゃない。
初恋が、ちゃんと愛になった瞬間だった。
芽依子は堪らなくなって、遥希の逞しい首に腕を絡めた。
嗚咽交じりに何度も頷く。
「……あかん」
耳元で低い声が耳の奥をくすぐる。
「……え?」
「嬉しすぎて、理性が仕事してへん」
そう言った遥希の瞳は、いつもの優しい“はる兄”じゃなかった。
ゆっくり額が重なって、もう一度唇が触れる。
さっきより少し長くて、少しだけ熱のあるキス。
「……はる、兄……」
呼びかけた声に、遥希は苦しそうに眉を寄せた。
熱を孕み、一人の男としての独占欲を隠そうともしない、情熱的な双眸。
「その呼び方、今は反則や……」
ぎゅっと抱き寄せたあと、肩口に額を埋める。
「……続きしたら、ほんま止まれる自信ない」
芽依子は遥希の背中に回した手にキュッと力を込め微笑んだ。
「……嫌、じゃないよ?」
遥希が固まったまま、苦しげに息を吐く。
「……それ、あかん」
「ほんまに理性飛ぶ」
そんな可愛くて愛しい、自分だけの恋人を、遥希は今度こそ離さないという想いで、強く、優しく抱きしめた。
「遥希が、世界で一番大好きっ……」
「俺も、芽依子が世界一好きや」
「せやから覚悟しとき――今度こそ、手ぇ離さへんから」
初恋は、終わるものじゃなかった。
ゆっくりと形を変えて、
やがて愛になり――
これから先の未来を、二人で歩いていくものだった。
-完-
冷えていたはずのはちみつ紅茶が、もうぬるくなっている。
それなのに、胸の奥だけが苦しいほど熱かった。
近すぎる距離に甘え、芽依子の心の揺れを“いつもの甘え”だと決めつけていた。
――自分が一番、彼女の気持ちを見ようとしていなかったのだ。
「……違う」
掠れた声が零れる。
芽依子が、不安そうに遥希を見上げた。
遥希は、その視線から逃げるみたいに一度額を押さえる。 けれど、もう誤魔化せなかった。
「俺、守りたかったんちゃう」
「……え?」
「違う。俺が欲しかっただけや」
低く落ちた声が、静かな部屋に響いた。
芽依子の両手に自分のを重ね合わせる。
「めいを妹やと思ったこと、一回もない」
「ずっと、一人の女として見てた」
「せやのに、“はる兄”って立場に甘えて……お前が離れていかんって勝手に思っとった」
「ほんま最低やな……」
遥希は、自嘲するように小さく笑う。
芽依子は何度も首を横にふって、遥希を見る。
「はる兄……」
「花島に嫉妬したんも、めいが逃げたんも、他の男とおるん想像するんも……全部、嫌やった」
「気ぃ狂いそうなくらい、欲しかった」
遥希は芽依子の頬へ触れる。
壊れ物を扱うみたいに優しく。
けれど、震える指先には隠しきれない熱が滲んでいた。
「妹やないよ」
「とっくに、一人の女として欲しいねん」
遥希の言葉が、胸の奥へゆっくり落ちていく。
一人の女として欲しいという言葉を、自分に向ける日なんて来ないと思っていた。
ずっと隣にいたのに、ずっと欲しかった言葉だった。
芽依子は体中に電流が走ったみたいに甘く痺れる。
(思い出した……はる兄が言ってたの)
『自分から欲しいって言えるようになってから』
――『その時は、ちゃんとキスしたる』
芽依子の瞳が、ゆっくり揺れる。
あの日。
キスしかけた遥希は、最後の一線を越えなかった。
まだ言えなかったからだ。
欲しいと。
離したくないと。
妹じゃなく、一人の女として愛していると。
(あたしもちゃんと応えたい)
「好きだよ、遥希。……今まで以上に、もっとずっと確かな気持ちで」
「遥希が欲しい」
高揚した頬に震える唇。
でも芽依子は、愛しさがあふれた微笑みで遥希を見つめる。
「俺も芽依子が好きやで」
甘い囁きに鼓膜が揺れると同時に、ゆっくり触れるだけのキス。
ただ今度はしっかりと、互いがわかる心地で。
「結婚前提で付き合ってほしい」
「っ……喜んで」
芽依子の瞳から、また涙が零れる。
嬉しいのに、苦しくて、笑いたいのに泣けてくる。
やっと届いた。
初恋の終わりじゃない。
初恋が、ちゃんと愛になった瞬間だった。
芽依子は堪らなくなって、遥希の逞しい首に腕を絡めた。
嗚咽交じりに何度も頷く。
「……あかん」
耳元で低い声が耳の奥をくすぐる。
「……え?」
「嬉しすぎて、理性が仕事してへん」
そう言った遥希の瞳は、いつもの優しい“はる兄”じゃなかった。
ゆっくり額が重なって、もう一度唇が触れる。
さっきより少し長くて、少しだけ熱のあるキス。
「……はる、兄……」
呼びかけた声に、遥希は苦しそうに眉を寄せた。
熱を孕み、一人の男としての独占欲を隠そうともしない、情熱的な双眸。
「その呼び方、今は反則や……」
ぎゅっと抱き寄せたあと、肩口に額を埋める。
「……続きしたら、ほんま止まれる自信ない」
芽依子は遥希の背中に回した手にキュッと力を込め微笑んだ。
「……嫌、じゃないよ?」
遥希が固まったまま、苦しげに息を吐く。
「……それ、あかん」
「ほんまに理性飛ぶ」
そんな可愛くて愛しい、自分だけの恋人を、遥希は今度こそ離さないという想いで、強く、優しく抱きしめた。
「遥希が、世界で一番大好きっ……」
「俺も、芽依子が世界一好きや」
「せやから覚悟しとき――今度こそ、手ぇ離さへんから」
初恋は、終わるものじゃなかった。
ゆっくりと形を変えて、
やがて愛になり――
これから先の未来を、二人で歩いていくものだった。
-完-



