「一緒に勉強しよう。そうすれば心細くないよ」
私は練くんの目を見て、うなずいた。
「うん」
あれ。今日、久しぶりに会ったら、練くんの前で今までみたいに話しかけられなくなってるな。でもさっきは抱きついてしまったし、極端な自分に複雑な気持ちになる。
ノートを手にちらりと私を見る練くん。その仕草がなぜか大人っぽく見えて、私はなんだか落ち着かなくなる。目を逸らしてやり過ごそうとすると、練くんは驚いたように一瞬だけ目を見開いて、それから前を向いて言った。
「玲奈。ぼくも去年、同じところでつまづいちゃってたよ。だからその時のノートに、理解するまで書いた跡が残ってる。ちょうど持ってきてたんだ」
練くんはカバンからそのノートを取り出しながら、つぶやいた。
「玲奈にも参考程度にアドバイスしようと思ってたから、ちょうどいいや」
え。
練くんは、ずいぶん会っていなくても、私の苦手、わかってくれていたんだ。
「あー、これだ」
練くんは、ずっとだまっている私に向かって、静かに言った。
「玲奈。ぼく、玲奈に会っていなかった数年間で、どうでもいいこともたくさん誰かに教えたくなる人になったよ。だから玲奈も、こんなのどうでもいいかって思うことも、授業の豆知識的なものも、たくさん聞いて、たくさん話してよ」
何が言いたいのかよくわからなかったけれど、それでも練くんは笑った。
「まあ要は、公式がわからないのは私だけだし、とか思わずに、不安だったら聞いてよって話」
ああ、そういうことか。
見つめると、練くんはうなずいてくれた。
私もこくっとうなずきかえした。
「ありがとう、練くん」
私は練くんが差し出してくれた教科書を開いて、指差した。
「ここの公式が、よくわからないの」
少し、柏餅の甘い香りがする食堂で、甘い毎日が始まった。
「玲奈は何味のアイスが好き?」
ぼーっと練くんの説明を聞いていたら、練くんがふとアイス屋さんのメニュー表を出してきた。
「僕の家はパティシエだから、甘いもの食べに来るお客さんが多いんだよね。でも最近、お客さん減っちゃってさ。そしたらお母さんが、もうすぐ夏だし、アイスが売れるんじゃないかって」
微妙な顔をし続ける私に、練くんは言った。
「大丈夫? ちょっと休憩しよっか」
練くんは一旦立ち上がってどこかに行こうとしたけれど、もう一度しゃがみ直した。練くんは私の背中に手を置いて、「一旦休憩」とつぶやいた。
「練くんは、自分の勉強大丈夫なの? 私に教えた時間は、無駄じゃない?」
私は立ち上がり、練くんの背中に向けて言った。
「玲奈に教えた公式、ちょっとだけ不安だったから。今やってる単元も、その公式使う問題あったから、無駄じゃないよ」
私は練くんの目を見て、うなずいた。
「うん」
あれ。今日、久しぶりに会ったら、練くんの前で今までみたいに話しかけられなくなってるな。でもさっきは抱きついてしまったし、極端な自分に複雑な気持ちになる。
ノートを手にちらりと私を見る練くん。その仕草がなぜか大人っぽく見えて、私はなんだか落ち着かなくなる。目を逸らしてやり過ごそうとすると、練くんは驚いたように一瞬だけ目を見開いて、それから前を向いて言った。
「玲奈。ぼくも去年、同じところでつまづいちゃってたよ。だからその時のノートに、理解するまで書いた跡が残ってる。ちょうど持ってきてたんだ」
練くんはカバンからそのノートを取り出しながら、つぶやいた。
「玲奈にも参考程度にアドバイスしようと思ってたから、ちょうどいいや」
え。
練くんは、ずいぶん会っていなくても、私の苦手、わかってくれていたんだ。
「あー、これだ」
練くんは、ずっとだまっている私に向かって、静かに言った。
「玲奈。ぼく、玲奈に会っていなかった数年間で、どうでもいいこともたくさん誰かに教えたくなる人になったよ。だから玲奈も、こんなのどうでもいいかって思うことも、授業の豆知識的なものも、たくさん聞いて、たくさん話してよ」
何が言いたいのかよくわからなかったけれど、それでも練くんは笑った。
「まあ要は、公式がわからないのは私だけだし、とか思わずに、不安だったら聞いてよって話」
ああ、そういうことか。
見つめると、練くんはうなずいてくれた。
私もこくっとうなずきかえした。
「ありがとう、練くん」
私は練くんが差し出してくれた教科書を開いて、指差した。
「ここの公式が、よくわからないの」
少し、柏餅の甘い香りがする食堂で、甘い毎日が始まった。
「玲奈は何味のアイスが好き?」
ぼーっと練くんの説明を聞いていたら、練くんがふとアイス屋さんのメニュー表を出してきた。
「僕の家はパティシエだから、甘いもの食べに来るお客さんが多いんだよね。でも最近、お客さん減っちゃってさ。そしたらお母さんが、もうすぐ夏だし、アイスが売れるんじゃないかって」
微妙な顔をし続ける私に、練くんは言った。
「大丈夫? ちょっと休憩しよっか」
練くんは一旦立ち上がってどこかに行こうとしたけれど、もう一度しゃがみ直した。練くんは私の背中に手を置いて、「一旦休憩」とつぶやいた。
「練くんは、自分の勉強大丈夫なの? 私に教えた時間は、無駄じゃない?」
私は立ち上がり、練くんの背中に向けて言った。
「玲奈に教えた公式、ちょっとだけ不安だったから。今やってる単元も、その公式使う問題あったから、無駄じゃないよ」



