いじわる主治医は、私にだけ甘い

帰り道、病院に向かう道で薬をひとつ飲む。
お腹が少し痛い。
でも先生の前では、いや彩人の前では笑顔でいたいから。

「お待たせ。休みもぎ取れたぜ。同僚たち泣いてたわ(笑)」

「おかえり。それにしても意地悪い。普通長期の旅行は一ヶ月前から言うのよ」

「あれ? 冴、体調悪い?」

「なんで?」

「いつもより声に張りがないし、なんか隠してる感じだ」

「ごめん、隠さないって約束、守れなかった。心配かけたくなくて。お腹が痛いの」

「じゃあ内診していこう。大丈夫。俺が居る」

「うん」

私たちはもう誰も居ないクリニックに戻った。
彩人は白衣を着て、電子カルテを開いている。

「冴、俺しかいないからいつもみたいに緊張しなくていい。怖かったら泣いてもいいし、弱音もいくらでも聞く」

「怖いよ……それに恥ずかしい」

「うん」

「彩人だからドキドキもする」

「それは仕方ない」

「それでも逃げたくない。病気からも彩人からも」

「そういうとこ好きだよ」

手にそっと触れて優しく呟く。

「がんばるから、彩人も私だけに優しくして」

「もう十分優しくしてる、愛してるよ冴」

ぎゅうううと抱きしめて、唇に彩人は長い指を添わせるとキスをしてくれる。

「隣すぐ内診台だから準備して」

「うん」

下着を外して、台に座る。
彩人はゴム手袋をする音がパチンと響く。

「はい、台上がるよ」

そして私は彩人の前で恥ずかしい姿になるわけだけど、前よりも緊張してないことに気がつく。だからかな?
エコーの器具が入ってきても痛くなかった。

「うん、ここ筋腫。画面見える? 前より少し大きくなってる。うーん短期間で大きくなってるから早めにオペした方がいいかな。とりあえず抜くよ。ふぅーってして」

器具が抜かれて、台が下がる。
私は着替えながら呟く。

「嫌だ……痛いの怖い」

「俺が執刀する」

「それでも」

「じゃあハワイに行ってゆっくり考えたらいい。どっちにしろ、俺はそばにいるから。我慢するな」

「ありがとう。もう少しだけ時間が欲しい。分かってるからちゃんと」

「俺は冴を信頼している。そしてそんな冴からの信頼も絶対に失いたくない。手術は絶対に怖くしないし、成功させる」

「うん」

彩人は電子カルテに色々書いたり、エコーの写真を整理したりして、帰りの準備を整えた。

「次はハワイから帰ったら、だな。紹介状書いて手続きするから」

「ハワイが最後の旅になりませんように」

ゴツンと頭を叩かれる。

「世界中つれてってやるから、そんな冗談言うなよ」