いじわる主治医は、私にだけ甘い

「花野さんが仕事してる時、楽しそうだったから気がつくと目で追うようになっていた」

二人で帰る道すがら、先生はポツポツと語り始めた。

「多分俺は愛想がなくて周りから怖がられやすいから、真逆の君がうらやましかったんだ」

「私からしたら先生の方がずっとすごいです。勉強沢山して、たくさんの患者さんを救って、毎日お忙しくて」

「でも、人のの心を惹き付け、誰かを笑顔にするあたたかさは、欲しいと思って手に入れられるものじゃない。花野さんだけのたからものみたいなものだよ」

「あ、ありがとうございます」

「そうやって、君がいるといいなと思ってオフの日には図書館に行くことが増えた。でもそんな君が、手術がいるほど痛みを我慢してるなんて辛かった。隠さないでいてほしかった」

「桐ヶ谷先生……」

「俺にだけは甘えていい。どんなに泣いたり挫けたりしていいから。だから我慢なんてするなよ」

どうして、欲しいと思っていた言葉を先生はくれるんだろ。真っ直ぐに目を見て、私を見つけてくれるんだろう。

「先生……あの、良かったら私のこと、冴って呼んでください」

「分かった。冴、俺のことも彩人でいいよ。外で、先生はちょっと恥ずかしいしな」

「ふふっ変なとこで照れるんですね」

彩人は突然壁にどんと私の体を押し付けて、上から甘く見つめてきた。

「ちゃんと呼べよ。俺の名前」

「……さ、彩人……」

「よしよし、おりこうさん」

「私、犬じゃないです」

彩人は頭を撫でて解放してくれる。
こんなの先生の言いなりじゃん。
それでも、いやじゃなかった。
夕方の空が初恋の色に輝いて見えた。