あれからさらに2日が経った。
相変わらず朱莉からの連絡はない。
練習にも来ないから、こんな調子じゃドラマ放送は延期にして代役を立ててやり直しって言ってた。
きっと朱莉は戻ってこない。
私は靴を履きながらそんなことを考えた。
相変わらず練習はあるから、今日だってちゃんと参加した。
そんなふうにうつむいている私に声をかけたのは、右京さんだった。
「夢叶ちゃん、帰るの?」
「はい」
私はいつも通り返事をした。
そんな私を見てか、右京さんはため息をついた。
「朱莉くんのことはいいの?」
「…いいんです。朱莉が幸せなら」
そう言うと、右京さんは私の目の前にスマホの画面を出してきた。
なにかの動画みたい。
よく見ると、そこには右京さんと朱莉がうつっていた。
隠し撮りみたいな感じ。
「これ、みて」
私は差し出されたスマホをとって、動画を再生した。
『ねえ、朱莉くん。私のことどう思ってる?』
いきなりぶっ込んだ質問で、ドキッとした。
朱莉は表情を変えず言った。
『さあ?』
誤魔化しているあたり、なんだか誤解しそう。
すると、右京さんが朱莉と顔をグッとくっつけた。
あと少しで口が重なりそうだと思った。
見たくないのに、目が離せない。
そして、右京さんが少し前に出て唇が重なった。
そう見えてしまった。
だけど実際には、寸前で朱莉が右京さんの口を自分の手で覆っていたのだ。
『由衣、こういうこともうやめろ』
朱莉の低い声に、右京さんが真顔になって離れた。
それから朱莉に聞く。
『どうして?からかってるだけだよ?それは、朱莉くんもわかってるでしょ?』
クスッと笑った右京さん。
その言葉に、朱莉は態度を変えずに言った。
『わかってる。だけど、それで夢叶が傷つくから』
『…朱莉くんは、夢叶ちゃんのことが好きなの?』
その質問にドキッとした。
朱莉は私が好きって言ってたけど、どうなんだろう。
『うん。めちゃくちゃ好き。小さい時からずっと』
ドキドキした。
素直に嬉しかった。
『ふーん。でもさ、たとえ付き合えても永遠なんてないんだよ?それは、朱莉くんも身をもって知ってるでしょ?』
——永遠なんてない。
その言葉が深く刺さった。
私の両親だって、永遠を誓ったって言ってた。
だけど、私ができたことで色々問題が起きて、離婚をした。
私も捨てられた。
朱莉もそうだから。
もしかしたら、右京さんもそういう経験をしたのかな?
右京さんはとても悲しそうな表情をしていたから、私はそう思ってしまった。
『そうかもしれない。だけど、俺は夢叶に永遠を誓う。俺には夢叶が全てなんだ。夢叶がいないと、俺の世界は始まらない』
その言葉に涙がこぼれた。
私だってそうだよ。
——朱莉がいないと、私の世界は始まらない。
朱莉がいなくなって気がついた。
私には朱莉が全てだったんだって。
それは永遠に変わらない。
「私の言いたいことわかったでしょ。朱莉くんは、絶対夢叶ちゃんのところに戻ってくる。ま、それが遅すぎて私がちょっと手助けしようって思ったわけ。私は朱莉くんを信じる。だからさ、朱莉くんを1番理解してあげられる夢叶ちゃんが信じてあげなきゃ、ダメでしょ」
コツンっと額をデコピンされた。
右京さんってこんなキャラだったっけ?
でも、こっちの方が自然な気がする。
そうだよね。
私が1番信じてあげなきゃ、朱莉のこと。
そう決意した私に、右京さんが言葉を続けた。
「私さ、ちょっと前にいろいろあったんだよね。……結婚、考えてたんだ。大好きな彼氏がいた」
突然語られたことに、私は驚きながらも黙って聞いた。
「でも、結構前から浮気されてたんだ。笑っちゃうよね。うん、笑うしかなかった。それから、永遠なんて信じられなくなってさ」
ポロポロと大粒の涙を流していた。
それでも、目の前の右京さんは強く見えた。
「もう絶対永遠なんて信じないって思った。そんな時に朱莉くんと夢叶ちゃんを見てて、辛くなっちゃった。朱莉くんから夢叶ちゃんのこと聞いてたからさ。永遠なんてないのに、どうしてこんなふうにいつまでも一緒にいるんだろって。壊したくなった。ごめんね、私ってこういう最低な女なんだ。だから彼氏にもフラれたんだよね」
そうだったんだ。
でも、きっとこうなったのはその彼氏さんのせいだから。
右京さんは悪くないって思っちゃう。
ひどいことたくさんされたはずなのに。
そして、私は意を決して言った。
「右京さんは悪くないです。むしろ感謝してます」
「え…?」
「右京さんがいなかったら、私たちは前に進めなかった。私も今、右京さんに励まされました!」
この人はきっと本音は嫌な人じゃない。
私はそう思ってるから。
右京さんは私の言葉を聞いて、拍子抜けしたように笑った。
「夢叶ちゃんってば、優しいね。ありがと。私もふたりを応援するよ」
そう言って、ニッと笑った。
その笑顔はスッキリしていた。
その後、チラッと右京さんが私の少し奥の方に視線を移した。
「ねえ、夢叶ちゃん。突然ごめん。ちょっと気になったんだけどさ、あの人誰だと思う?」
そう言われたので振り返ると、そこには男の人が立っていた。
黒髪に灰色の切長の瞳。
一見芸能人のように見える、とってもかっこいい人。
私も最初は監督の知り合いかな?と思った。
だけど、違和感を覚えた。
——私はこの人を知ってる。
その後自分の口から出た単語に、自分自身で驚いた。
「お父さん…」
「え?ゆ、夢叶ちゃんのお父さんって、夢叶ちゃんを捨てた人だよね?」
そうだ。
その通りだ。
今更なにをしにきたと言うのだ。
「夢叶!やっと見つけた…!」
私の方に駆け寄ってきたお父さん。
私は思わず身構えた。
お父さんは、私の前でピタリと動きを止めた。
「夢叶、ごめん。本当に悪かった。お前がこんなに成長してるなんて…。お父さん嬉しいよ」
なにか、嫌な予感がする。
朱莉のお母さんが迎えにきた時のような、嫌な感じが。
「夢叶、お父さんと帰らないか?本当に悪かったと思ってる!だから、やり直そう」
私のお父さんも、朱莉のお母さんと同じだ。
私を連れ戻しにきたんだ。
よりにもよって、朱莉のいないタイミングで。
「夢叶ちゃん…」
右京さんの声にハッとした。
ダメだ、しっかりしろ。
前の私なら、朱莉みたいにお父さんについていっていたかもしれない。
だけど、お父さんにただついていってもいいことはない。
それに朱莉が戻ってきた時に、悲しい思いをさせたくない。
「右京さん、私は大丈夫です」
隣にいる右京さんに、私はにこっと笑った。
それから、お父さんに向き直って言った。
「お父さん、ちゃんと聞いてほしいことがあるの。この後時間があったら、私の部屋に来てくれない?」
「あ、ああ。わかった。なら、お母さんも一緒でいいか?」
「えっ?お、お母さん?」
これには驚いた。
お母さんとお父さんは離婚をしてるし、お母さんは再婚までしてるって聞かされてる。
まだ接点があったんだ。
「最近会うようになってな。前みたいには行かないが、友達のように接してる」
まあ、あまり突っ込まないでおこう。
私は「そうなんだ」とだけ言った。
「うん。じゃあ、お母さんも一緒でいいよ。お母さんを連れて7時ごろに私の部屋に来て。前に使ってたラインに住所送っとく」
そう言った後、私は右京さんの方を向いた。
「右京さん、ありがとうございます!また明日会いましょう」
笑顔で手を振って、私は自分の家に帰るために走った。
私は騙されない。
朱莉は絶対帰ってくるから。
私は朱莉を信じるから、なにを言われたってついてかないんだから。
私は一筋涙を流した。
相変わらず朱莉からの連絡はない。
練習にも来ないから、こんな調子じゃドラマ放送は延期にして代役を立ててやり直しって言ってた。
きっと朱莉は戻ってこない。
私は靴を履きながらそんなことを考えた。
相変わらず練習はあるから、今日だってちゃんと参加した。
そんなふうにうつむいている私に声をかけたのは、右京さんだった。
「夢叶ちゃん、帰るの?」
「はい」
私はいつも通り返事をした。
そんな私を見てか、右京さんはため息をついた。
「朱莉くんのことはいいの?」
「…いいんです。朱莉が幸せなら」
そう言うと、右京さんは私の目の前にスマホの画面を出してきた。
なにかの動画みたい。
よく見ると、そこには右京さんと朱莉がうつっていた。
隠し撮りみたいな感じ。
「これ、みて」
私は差し出されたスマホをとって、動画を再生した。
『ねえ、朱莉くん。私のことどう思ってる?』
いきなりぶっ込んだ質問で、ドキッとした。
朱莉は表情を変えず言った。
『さあ?』
誤魔化しているあたり、なんだか誤解しそう。
すると、右京さんが朱莉と顔をグッとくっつけた。
あと少しで口が重なりそうだと思った。
見たくないのに、目が離せない。
そして、右京さんが少し前に出て唇が重なった。
そう見えてしまった。
だけど実際には、寸前で朱莉が右京さんの口を自分の手で覆っていたのだ。
『由衣、こういうこともうやめろ』
朱莉の低い声に、右京さんが真顔になって離れた。
それから朱莉に聞く。
『どうして?からかってるだけだよ?それは、朱莉くんもわかってるでしょ?』
クスッと笑った右京さん。
その言葉に、朱莉は態度を変えずに言った。
『わかってる。だけど、それで夢叶が傷つくから』
『…朱莉くんは、夢叶ちゃんのことが好きなの?』
その質問にドキッとした。
朱莉は私が好きって言ってたけど、どうなんだろう。
『うん。めちゃくちゃ好き。小さい時からずっと』
ドキドキした。
素直に嬉しかった。
『ふーん。でもさ、たとえ付き合えても永遠なんてないんだよ?それは、朱莉くんも身をもって知ってるでしょ?』
——永遠なんてない。
その言葉が深く刺さった。
私の両親だって、永遠を誓ったって言ってた。
だけど、私ができたことで色々問題が起きて、離婚をした。
私も捨てられた。
朱莉もそうだから。
もしかしたら、右京さんもそういう経験をしたのかな?
右京さんはとても悲しそうな表情をしていたから、私はそう思ってしまった。
『そうかもしれない。だけど、俺は夢叶に永遠を誓う。俺には夢叶が全てなんだ。夢叶がいないと、俺の世界は始まらない』
その言葉に涙がこぼれた。
私だってそうだよ。
——朱莉がいないと、私の世界は始まらない。
朱莉がいなくなって気がついた。
私には朱莉が全てだったんだって。
それは永遠に変わらない。
「私の言いたいことわかったでしょ。朱莉くんは、絶対夢叶ちゃんのところに戻ってくる。ま、それが遅すぎて私がちょっと手助けしようって思ったわけ。私は朱莉くんを信じる。だからさ、朱莉くんを1番理解してあげられる夢叶ちゃんが信じてあげなきゃ、ダメでしょ」
コツンっと額をデコピンされた。
右京さんってこんなキャラだったっけ?
でも、こっちの方が自然な気がする。
そうだよね。
私が1番信じてあげなきゃ、朱莉のこと。
そう決意した私に、右京さんが言葉を続けた。
「私さ、ちょっと前にいろいろあったんだよね。……結婚、考えてたんだ。大好きな彼氏がいた」
突然語られたことに、私は驚きながらも黙って聞いた。
「でも、結構前から浮気されてたんだ。笑っちゃうよね。うん、笑うしかなかった。それから、永遠なんて信じられなくなってさ」
ポロポロと大粒の涙を流していた。
それでも、目の前の右京さんは強く見えた。
「もう絶対永遠なんて信じないって思った。そんな時に朱莉くんと夢叶ちゃんを見てて、辛くなっちゃった。朱莉くんから夢叶ちゃんのこと聞いてたからさ。永遠なんてないのに、どうしてこんなふうにいつまでも一緒にいるんだろって。壊したくなった。ごめんね、私ってこういう最低な女なんだ。だから彼氏にもフラれたんだよね」
そうだったんだ。
でも、きっとこうなったのはその彼氏さんのせいだから。
右京さんは悪くないって思っちゃう。
ひどいことたくさんされたはずなのに。
そして、私は意を決して言った。
「右京さんは悪くないです。むしろ感謝してます」
「え…?」
「右京さんがいなかったら、私たちは前に進めなかった。私も今、右京さんに励まされました!」
この人はきっと本音は嫌な人じゃない。
私はそう思ってるから。
右京さんは私の言葉を聞いて、拍子抜けしたように笑った。
「夢叶ちゃんってば、優しいね。ありがと。私もふたりを応援するよ」
そう言って、ニッと笑った。
その笑顔はスッキリしていた。
その後、チラッと右京さんが私の少し奥の方に視線を移した。
「ねえ、夢叶ちゃん。突然ごめん。ちょっと気になったんだけどさ、あの人誰だと思う?」
そう言われたので振り返ると、そこには男の人が立っていた。
黒髪に灰色の切長の瞳。
一見芸能人のように見える、とってもかっこいい人。
私も最初は監督の知り合いかな?と思った。
だけど、違和感を覚えた。
——私はこの人を知ってる。
その後自分の口から出た単語に、自分自身で驚いた。
「お父さん…」
「え?ゆ、夢叶ちゃんのお父さんって、夢叶ちゃんを捨てた人だよね?」
そうだ。
その通りだ。
今更なにをしにきたと言うのだ。
「夢叶!やっと見つけた…!」
私の方に駆け寄ってきたお父さん。
私は思わず身構えた。
お父さんは、私の前でピタリと動きを止めた。
「夢叶、ごめん。本当に悪かった。お前がこんなに成長してるなんて…。お父さん嬉しいよ」
なにか、嫌な予感がする。
朱莉のお母さんが迎えにきた時のような、嫌な感じが。
「夢叶、お父さんと帰らないか?本当に悪かったと思ってる!だから、やり直そう」
私のお父さんも、朱莉のお母さんと同じだ。
私を連れ戻しにきたんだ。
よりにもよって、朱莉のいないタイミングで。
「夢叶ちゃん…」
右京さんの声にハッとした。
ダメだ、しっかりしろ。
前の私なら、朱莉みたいにお父さんについていっていたかもしれない。
だけど、お父さんにただついていってもいいことはない。
それに朱莉が戻ってきた時に、悲しい思いをさせたくない。
「右京さん、私は大丈夫です」
隣にいる右京さんに、私はにこっと笑った。
それから、お父さんに向き直って言った。
「お父さん、ちゃんと聞いてほしいことがあるの。この後時間があったら、私の部屋に来てくれない?」
「あ、ああ。わかった。なら、お母さんも一緒でいいか?」
「えっ?お、お母さん?」
これには驚いた。
お母さんとお父さんは離婚をしてるし、お母さんは再婚までしてるって聞かされてる。
まだ接点があったんだ。
「最近会うようになってな。前みたいには行かないが、友達のように接してる」
まあ、あまり突っ込まないでおこう。
私は「そうなんだ」とだけ言った。
「うん。じゃあ、お母さんも一緒でいいよ。お母さんを連れて7時ごろに私の部屋に来て。前に使ってたラインに住所送っとく」
そう言った後、私は右京さんの方を向いた。
「右京さん、ありがとうございます!また明日会いましょう」
笑顔で手を振って、私は自分の家に帰るために走った。
私は騙されない。
朱莉は絶対帰ってくるから。
私は朱莉を信じるから、なにを言われたってついてかないんだから。
私は一筋涙を流した。



