発音の綺麗な日本語と、スカイクレスト航空という名前に涙が滲んだ。同じ会社の人だ。
「は、はい」
『よし。高度はそのままで、いつもの訓練通りに旋回するんだ』
落ち着いた日本語を聞いて、パニックになっていた気持ちが落ち着いてくる。
「北上し、西に旋回します。それから着陸コースに入ります。注意することはありますか?」
『着陸する時は前輪への負荷を軽減する為に機首を上げる。それからメインギア(後輪)を接地させた後、地面に触れる瞬間を一秒でも遅らせるように失速ギリギリまで機首は上げ続けるんだ。そうすれば滑走路から逸れずにまっすぐ進める。大丈夫だ。君ならできる』
耳に響く男性の声は安心感があった。おかげで私は冷静になれた。
「はい」
着陸のコースに入るとフロントガラス越しに滑走路が見えてくる。
高度は500フィート。
「高度、速度、よし。フラップ、フル。……メインギア、確認」
気持ちを落ち着かせるように、一つ一つ確認していく。隣に教官がいない分、機体がいつもより軽く風に煽られるが、両手で操縦桿を握り何とか操縦する。高度は50フィートまで下がり、灰色の帯のように見えていた滑走路がハッキリとしたアスファルトの塊に見えてくる。
接地の恐怖に胃がキュッと縮んだ時、ヘッドセットから副操縦士の声が流れた。
『エリート25、接地寸前の高度10フィートまで降りたら、ミクスチャーをカットしてエンジンを止めるだ』
「えっ! ミクスチャーを切るんですか?」
それはつまり燃料を完全に遮断し空中でエンジンを止めることになる。
普段の訓練でエンジンを切るのは駐機場に止まる時だから、絶対にありえない。
『そうだ。火災を防ぎ、プロペラへのダメージを最小限にする為に切るんだ。ノーズギアがない状態で着陸するにはそれが一番安全な方法だ。大丈夫、俺を信じろ』
「……はい」
『今だ。ミクスチャーをカット』
私は思い切って、スロットレバーの隣にあるミクスチャーの赤いレバーを引いた。その瞬間、操縦桿が重くなり、メインギアが滑走路に接地し、機体が大きく振動する。
『操縦桿を手前に引き続けろ!』
力いっぱい操縦桿を胸の前に引き寄せる。
速度が落ち、機体が前のめりになろうとするが、機首を限界まで上げ続けた。そして、揚力を失った機首がガクンと前に沈む。その瞬間、凄まじい衝撃が伝わってくる。
――ガガガガッ!!
機首が滑走路を擦り、フロントガラスの端で火花が激しく散る。焦げた金属の匂いが鼻先を掠めた。機体は激しく左右に振られ、私は必死にラダーペダルを踏み込んでセンターラインにしがみつく。そして、滑走路の真ん中で機体が前のめりになったまま静止する。
荒くなった自分の呼吸音を聞いていると、ヘッドセットに副操縦士の声が響く。
『エリート25、よくやった。最高のランディングだ』
その言葉を聞いた瞬間、全身の力が抜け、緊張の糸が途切れた。
気がついた時には私は訓練所の医務室のベッドの上で、私に的確な指示を出してくれた彼の姿はもうどこにもなかった。教官に聞いたけど、スカイクレスト航空の副操縦士だということ以外はわからないと言われた。
彼に会いたい。この五年ずっとそう思って来たけど、未だに会えない。うちの会社にはパイロットが千人いるから難しい話なのかもしれない。ひょっとしたら転職している可能性だってある。でも、今日も彼に会える奇跡を願っている。
短く息をつくと、車内にアナウンスが響く。
『まもなく終点、羽田空港第一、第二ターミナル』
私は足元のバッグを持って立ち上がった。
「は、はい」
『よし。高度はそのままで、いつもの訓練通りに旋回するんだ』
落ち着いた日本語を聞いて、パニックになっていた気持ちが落ち着いてくる。
「北上し、西に旋回します。それから着陸コースに入ります。注意することはありますか?」
『着陸する時は前輪への負荷を軽減する為に機首を上げる。それからメインギア(後輪)を接地させた後、地面に触れる瞬間を一秒でも遅らせるように失速ギリギリまで機首は上げ続けるんだ。そうすれば滑走路から逸れずにまっすぐ進める。大丈夫だ。君ならできる』
耳に響く男性の声は安心感があった。おかげで私は冷静になれた。
「はい」
着陸のコースに入るとフロントガラス越しに滑走路が見えてくる。
高度は500フィート。
「高度、速度、よし。フラップ、フル。……メインギア、確認」
気持ちを落ち着かせるように、一つ一つ確認していく。隣に教官がいない分、機体がいつもより軽く風に煽られるが、両手で操縦桿を握り何とか操縦する。高度は50フィートまで下がり、灰色の帯のように見えていた滑走路がハッキリとしたアスファルトの塊に見えてくる。
接地の恐怖に胃がキュッと縮んだ時、ヘッドセットから副操縦士の声が流れた。
『エリート25、接地寸前の高度10フィートまで降りたら、ミクスチャーをカットしてエンジンを止めるだ』
「えっ! ミクスチャーを切るんですか?」
それはつまり燃料を完全に遮断し空中でエンジンを止めることになる。
普段の訓練でエンジンを切るのは駐機場に止まる時だから、絶対にありえない。
『そうだ。火災を防ぎ、プロペラへのダメージを最小限にする為に切るんだ。ノーズギアがない状態で着陸するにはそれが一番安全な方法だ。大丈夫、俺を信じろ』
「……はい」
『今だ。ミクスチャーをカット』
私は思い切って、スロットレバーの隣にあるミクスチャーの赤いレバーを引いた。その瞬間、操縦桿が重くなり、メインギアが滑走路に接地し、機体が大きく振動する。
『操縦桿を手前に引き続けろ!』
力いっぱい操縦桿を胸の前に引き寄せる。
速度が落ち、機体が前のめりになろうとするが、機首を限界まで上げ続けた。そして、揚力を失った機首がガクンと前に沈む。その瞬間、凄まじい衝撃が伝わってくる。
――ガガガガッ!!
機首が滑走路を擦り、フロントガラスの端で火花が激しく散る。焦げた金属の匂いが鼻先を掠めた。機体は激しく左右に振られ、私は必死にラダーペダルを踏み込んでセンターラインにしがみつく。そして、滑走路の真ん中で機体が前のめりになったまま静止する。
荒くなった自分の呼吸音を聞いていると、ヘッドセットに副操縦士の声が響く。
『エリート25、よくやった。最高のランディングだ』
その言葉を聞いた瞬間、全身の力が抜け、緊張の糸が途切れた。
気がついた時には私は訓練所の医務室のベッドの上で、私に的確な指示を出してくれた彼の姿はもうどこにもなかった。教官に聞いたけど、スカイクレスト航空の副操縦士だということ以外はわからないと言われた。
彼に会いたい。この五年ずっとそう思って来たけど、未だに会えない。うちの会社にはパイロットが千人いるから難しい話なのかもしれない。ひょっとしたら転職している可能性だってある。でも、今日も彼に会える奇跡を願っている。
短く息をつくと、車内にアナウンスが響く。
『まもなく終点、羽田空港第一、第二ターミナル』
私は足元のバッグを持って立ち上がった。



