「高月キャプテンのこと知らなかったの?」
「人間関係はあまり得意じゃなくて」
なぎさとは親しいけど、他のCAとは仕事以外の話はしない。なぜか彼女たちから敵意のようなものを感じるのだ。女性パイロットというだけで、偉そうに見えるらしいが、私は全くそんなつもりはなく、プロのパイロットとして自分の仕事をしているだけだ。
「またそんなこと言って。少しは人間に興味持ちなよ。いつまでも幻の彼を想っていても会えるかわからないんだよ。私たちもう28才なんだし、そろそろ現実の恋を追いかけなきゃ」
――幻の彼。
五年前の出来事が浮かぶ。アメリカのフロリダでの飛行訓練中の出来事だった。その日は初めての教官なしで一人で飛ぶソロフライトで、私は緊張しながらも、訓練機で離陸した。
教官のいない機体は驚く程軽く、普段よりも鋭い角度で上昇し、管制塔がみるみる小さくなっていく景色に胸を躍らせていた。しかし、一人きりの空を楽しんでいたのも束の間で、ヘッドセットから聞こえた管制官の冷静な英語に目の前が真っ暗になった。
『エリート25、こちらタワー。貴機の離陸直後、滑走上で前輪の一部が発見された。ノーズギアが脱落している。意向を報告せよ』
ノーズギア(前輪)が脱落……。
つまり、メインギア(後輪)だけで着陸することになる。そうなったら機首が滑走路に激突し、最悪の場合は火災が発生して命を失う大事故になる可能性だって……。
死の恐怖が操縦桿を握る指先からじわじわと這い上がって来た。計器盤の数字が歪んで見える。パイロットはどんな時も冷静でいなければいけないけど、初めてのソロフライトで前輪が脱落だなんてありえない。私はどうやって着陸したらいいの?
パニックを起こしかけている時、地上にいる教官の声がヘッドセットに流れるけど、いつも以上に英語が早くて聞き取れない。
「ゆっくり、喋ってください」
思わず日本語でそう呼びかけたら、教官とは違う落ち着いた男性の声が聞こえた。
『私はスカイクレスト航空の副操縦士だ。ノーズギアがなくても、無事に着陸はできる。まずは落ち着きなさい』
「人間関係はあまり得意じゃなくて」
なぎさとは親しいけど、他のCAとは仕事以外の話はしない。なぜか彼女たちから敵意のようなものを感じるのだ。女性パイロットというだけで、偉そうに見えるらしいが、私は全くそんなつもりはなく、プロのパイロットとして自分の仕事をしているだけだ。
「またそんなこと言って。少しは人間に興味持ちなよ。いつまでも幻の彼を想っていても会えるかわからないんだよ。私たちもう28才なんだし、そろそろ現実の恋を追いかけなきゃ」
――幻の彼。
五年前の出来事が浮かぶ。アメリカのフロリダでの飛行訓練中の出来事だった。その日は初めての教官なしで一人で飛ぶソロフライトで、私は緊張しながらも、訓練機で離陸した。
教官のいない機体は驚く程軽く、普段よりも鋭い角度で上昇し、管制塔がみるみる小さくなっていく景色に胸を躍らせていた。しかし、一人きりの空を楽しんでいたのも束の間で、ヘッドセットから聞こえた管制官の冷静な英語に目の前が真っ暗になった。
『エリート25、こちらタワー。貴機の離陸直後、滑走上で前輪の一部が発見された。ノーズギアが脱落している。意向を報告せよ』
ノーズギア(前輪)が脱落……。
つまり、メインギア(後輪)だけで着陸することになる。そうなったら機首が滑走路に激突し、最悪の場合は火災が発生して命を失う大事故になる可能性だって……。
死の恐怖が操縦桿を握る指先からじわじわと這い上がって来た。計器盤の数字が歪んで見える。パイロットはどんな時も冷静でいなければいけないけど、初めてのソロフライトで前輪が脱落だなんてありえない。私はどうやって着陸したらいいの?
パニックを起こしかけている時、地上にいる教官の声がヘッドセットに流れるけど、いつも以上に英語が早くて聞き取れない。
「ゆっくり、喋ってください」
思わず日本語でそう呼びかけたら、教官とは違う落ち着いた男性の声が聞こえた。
『私はスカイクレスト航空の副操縦士だ。ノーズギアがなくても、無事に着陸はできる。まずは落ち着きなさい』



