クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない

 ホームに京急線の赤い電車が滑りこんでくる。
 フライトバッグとステイバッグの両方を持って電車に乗り込むと、暖房の暖かさにほっとする。
 四月二日の午前五時二十分過ぎ、乗客はまばらで、椅子に座ろうとした時、知った顔があった。

「なぎさ、おはよう」
瑞希(みずき)、おはよう」

 丸顔にボブヘアがよく似合う仲村なぎさが笑顔でそう私に返した。
 彼女は同じスカイクレスト航空で働く同期入社のCAで、地上研修の時に空港のカウンターでグランドスタッフとして一緒に働いて以来親しい。
 ショートカットで薄化粧の私とは違い、なぎさは早朝からバッチリとメイクをしていて、CAらしい華やかなオーラを纏っている。

「なぎさも朝のフライトでしょ」

 隣に座ると、なぎさが唇の両端を上げてにんまりとした笑みを浮かべた。

「そうなの。そうなの。今日は羽田―福岡往復で、高月(たかつき)隼人キャプテンとフライト一緒なんだから!」

 自慢げに言われて苦笑が浮かぶ。

「あのさ。そのフライト私も一緒だから」
「えー、瑞希も一緒なの?」

 なぎさはそう言うと、バッグからスマホを取り出し、今日のクルーリストを確認し始めた。

「あー、今日のコーパイ(副操縦士)は瑞希だ。でも、瑞希って737じゃなかったっけ?」

 今度は私が得意げな笑みを浮かべる番だった。

「先週からボーイング787のチームに移ったの! 三ヶ月間の移行訓練、死ぬ気で頑張ったんだから」

 今までは国内線がメインだったボーイング737のコーパイだったが、737よりも大型で、最新のテクノロジーが詰め込まれた787のライセンスを無事に取得したのだった。

「瑞希スゴイね。737から787って、乗用車から大型バスに乗り換えるくらい違うんでしょ?」
「そうだね。737は全幅が約36mだったけど、787は60mもあるからね。だからタキシング(地上走行)している時、誘導路から翼がはみ出ないように今まで以上に気を遣うんだよね。でも、大きな機体で空を飛ぶのはすごく気持ちいい。パイロットのいい所は空が飛べる所だよね」

 なぎさがクスッと笑う。

「瑞希は本当、空を飛ぶことが好きだよね」
「うん。小学生の時に航空博物館でフライトシミュレーターを操作してから、空を飛べるのはいいなって思ったんだ」
「はいはい。それでパイロットになったんでしょ。その話、何度聞いたことか。それより、高月キャプテンとコックピットで一緒だなんて羨ましい。一年前に三十三歳で最年少機長になったエリートでしかも社内一のイケメン。うちの四千人のCAは全員高月キャプテンを狙っているって話なんだから」
「四千人って、また大袈裟な」

 最年少機長の話は聞いたことがあったけど、それが今日のフライトで一緒になる高月隼人キャプテンのことだとは全く知らなかった。

「大袈裟じゃないって。だって高月キャプテンってめちゃくちゃイケメンなんだよ。瑞希だってそう思うでしょ?」
「さあ、会ったことないから知らない」

 なぎさが大きく眉を上げる。