クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない

 船はエッフェル塔まで来ると、方向を変えシテ島まで戻り始める。修復中のノートルダム大聖堂を通り過ぎると、隼人(はやと)さんが口を開いた。

「あの先に見える石造りの橋、マリー橋と言うんだ。知ってるか?」

 隼人さんが指した先にサン・ルイ島とパリ右岸をつなぐ石造りの五つのアーチが見える。

「いえ」
「ポン・ヌフの次に古い橋で、あの橋をくぐる時に、恋人とキスをして願い事をすると叶うと言われている。……やってみないか?」

 隼人さんが握っていた私の左手を、指を絡めるようにして強く握りしめた。

「でも、私たちは本当の恋人じゃないから」
「今だけは、マリー橋の下を通る間は、俺の恋人になって欲しい」
「それは、願いを叶えるためですか?」
「ああ。どうしても叶えたい願いがある」
「……どんな願いですか?」
「叶った時に教える」

 恋人に向けるような熱い瞳に見つめられ、鼓動が速くなる。
 ずるい。そんな目で見つめられたら、隼人さんが私を好きだって勘違いしそうになる。こっちは隼人さんが好きで堪らないのに。でも、マリー橋の下を通る間だけは恋心を隠す必要はないんだ。本当の私で隼人さんと向き合える。

「……わかりました」

 私の答えを聞くと、隼人さんに抱きしめられた。隼人さんの甘い匂いに包まれて、下腹部がきゅっと熱くなる。一緒に布団で寝るようになってから知った大好きな隼人さんの匂いだ。

 船が橋の影にゆっくりと入った瞬間、周囲が薄暗くなった。

「今だけは、俺たちは本当の恋人だ」

 隼人さんが私の顎を掴み、顔を上に向けさせる。そして柔らかな唇が重なった。契約恋人として誰かに見せる為のキスではなく、本当の恋人としてのキスだと思ったら瞼の奥が熱くなる。隼人さんが大好き。こんなに誰かを強く好きになったことは今までなかった。この気持ちが隼人さんに届けばいいのに。

 私は隼人さんの背中を強く掴み、求められるまま唇を合わせた。心と心がつながるような深いキスをしながら、どうかこの契約が終わった後も隼人さんと一緒にいられますようにと強く願った。