5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




「……見たんだよ、俺。翔と部屋を出て歩いてる途中、海緒ちゃんが呼吸困難の一歩手前までいったところ」



佐原の声は、今にも消えてしまいそうなほど掠れていた。


あいつはその光景を、陰から見ていたのか。

自分の引き起こした事態の重さを、その目で、逃げ場のない現実として突きつけられたんだ。



「………」




俺は何も言えなかった。

あの日以来、初めて見たあの乱れた呼吸。


彼女がどれほどの恐怖と自責の念に押し潰されていたか。それを思い出すだけで、喉の奥が熱くなる。



「好きな人を、苦しめたんだ。俺の勝手な、行き過ぎた行動が」



自嘲気味に笑う佐原の瞳は、ひどく濁っていた。


海緒を喜ばせたくて、振り向かせたくて取った行動が、結果として彼女を一番深い闇へと突き落としてしまった。


あいつにとって、これ以上の絶望はないだろう。


さっきまでの「勝手すぎる」という俺の怒りは、目の前でボロボロに崩れ落ちていく親友の姿を前にして、行き場を失い、静かに沈殿していった。