5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




ふう、と一息を吐いたあと、
佐原はようやく重い口を開いた。



「俺、海緒ちゃんのこと諦めるよ。翔には、敵わない」

「……は?」



佐原の口から飛び出したとんでもない発言に、
俺は自分の耳を疑った。


あれだけ海緒を振り回して、好きだと言っておいて。
俺よりも先に、あんな強引なやり方で彼女の唇を奪っておいて。


……何より、俺に対して堂々とライバル宣言までしておいて。


なんだよ、それ。勝手すぎんだろ。


あいつの中で何が完結したのか知らないが、
振り回された海緒の気持ちはどうなるんだ。

俺が今日、どんな思いで過呼吸の彼女を抱きしめていたと思ってる?



「本気で言ってんの? それ」

「うん」



真っ直ぐに俺を見て答えるあいつの瞳に、
嘘はないようだった。それが余計に腹立たしい。



「……なんで急に諦めたんだよ」



怒りで震えそうになる拳を隠し、
喉の奥から絞り出すように問い詰めた。


もしこれが、あいつなりの「譲歩」だと言うのなら。

海緒を傷つけたまま逃げ出すための口実だと言うのなら。
俺は親友であるあいつを、今度こそ許せなくなるかもしれないと思った。