ふう、と一息を吐いたあと、
佐原はようやく重い口を開いた。
「俺、海緒ちゃんのこと諦めるよ。翔には、敵わない」
「……は?」
佐原の口から飛び出したとんでもない発言に、
俺は自分の耳を疑った。
あれだけ海緒を振り回して、好きだと言っておいて。
俺よりも先に、あんな強引なやり方で彼女の唇を奪っておいて。
……何より、俺に対して堂々とライバル宣言までしておいて。
なんだよ、それ。勝手すぎんだろ。
あいつの中で何が完結したのか知らないが、
振り回された海緒の気持ちはどうなるんだ。
俺が今日、どんな思いで過呼吸の彼女を抱きしめていたと思ってる?
「本気で言ってんの? それ」
「うん」
真っ直ぐに俺を見て答えるあいつの瞳に、
嘘はないようだった。それが余計に腹立たしい。
「……なんで急に諦めたんだよ」
怒りで震えそうになる拳を隠し、
喉の奥から絞り出すように問い詰めた。
もしこれが、あいつなりの「譲歩」だと言うのなら。
海緒を傷つけたまま逃げ出すための口実だと言うのなら。
俺は親友であるあいつを、今度こそ許せなくなるかもしれないと思った。



