5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




そんな時、背後から近づいてくる足音が聞こえた。
それは扉の前で、ためらうようにピタッと止まる。


扉についた小さな窓から確認しなくても、
そこに立っているのが誰なのか、容易に予想はついた。

長く一緒に過ごしてきたあいつの気配を、俺が間違えるはずもない。



「……いるんだろ、佐原」



俺が声をかけると、あいつはようやく姿を現した。

顔色はそこまで悪くはなさそうだったけれど、ここに入ってきてからも、一向に話す気配はない。

何を言えばいいのか、あいつ自身も迷っているのかもしれない。



「俺、もう怒ってねーから。海緒を抱きしめたのも、キスしたのも」



嘘偽りのない本心だった。
あいつの行動に驚かなかったと言えば嘘になる。


けれど、あいつを責めて絶交したいなんて、
一ミリも思っていない。


ただ、海緒が泣きじゃくっていたあの光景だけが、胸の奥に刺さって抜けないんだ。


俺はあいつを突き放すのではなく、
今の自分の正直な温度を伝えるように言葉を続けた。


怒りよりも、悲しさやもどかしさが混ざり合った、やり場のない感情。


親友であるあいつと、大切にしたい海緒。その間に立たされた俺の、精一杯の言葉だった。