5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




『あ、あのっ……』



部屋を出ようと立ち上がった俺の服を、
力なく、けれど必死に小さな手が握りしめてきた。



『もう少し、だけ……一緒にいてくれませんか。私が眠ったら、離れていいので……』



心臓が跳ね上がる。

あの日以来、彼女は俺に対してどこか一線を引いていた。それなのに今、初めて、彼女から「一番近い距離」にいることを許されたんだ。


その事実が、脳を麻痺させるほどの衝撃となって俺を襲う。

彼女の体温、指先の震え……すべてが愛おしくて、頭がいっぱいになった俺は、思わず返事をするのを忘れて立ち尽くしてしまった。


すると、俺の沈黙を拒絶だと受け取ったのか、海緒が慌てて手を離そうとする。



『……って、ご迷惑、ですよね。まだ練習も残っているのに……すみません』

「……っ、違う、迷惑なんて思ってない。びっくりしただけ」



消え入りそうな声で謝る彼女の言葉を遮るように、俺は再びその場に腰を下ろした。


むしろ、このまま時間が止まってしまえばいいとさえ思っている自分を隠しながら、俺は彼女の安心させるように、その小さな手を優しく包み込んだ。