5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




『……翔、せんぱい……っ……』



途切れがちな呼吸の合間に、彼女が震える声で俺を呼ぶ。



「うん、なあに。ここにいるよ」



なるべく穏やかに、彼女を不安にさせないような声で返すと、海緒は縋るような瞳で俺を見上げ、精一杯の言葉を紡ぎ出した。



『今だけ……、私のこと……抱きしめて、くださいっ……』



その言葉が鼓膜に届いた瞬間、
心臓が痛いほど脈打った。


嫌だなんて、言うわけがない。

ずっと、ずっと……。
俺はただ彼女の背中を追い、その肩に触れることさえ躊躇(ためら)い続けてきたのだから。


俺は膝をついたまま、震える彼女の体を、
壊れないように、でももう離さないという意志を込めて、力強く腕の中に引き寄せた。



「……海緒」



腕の中に収まった彼女は驚くほど細くて、小さくて。その背中をゆっくりとさすりながら、俺は自分の胸の鼓動が彼女に伝わってしまわないか、それだけを心配していた。


今は、佐原のことも、過去のトラウマも、全部忘れていい。
俺の体温だけを感じて、ただ呼吸をしてくれればいいから。


彼女が落ち着くまで、俺は何度でも、その温もりを確かめるように抱きしめ続けた。