5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




『怖く……なかったんです。でも、力が抜けちゃって、抵抗、できなくて……自分でも、なんで、あの雰囲気に流されてしまったのか、分から……なく、てっ……』



過呼吸気味に言葉を紡ぐ海緒の肩が、
激しく上下している。


こんなに乱れた彼女の呼吸を見るのは、
あの日以来だった。

過去の傷が、今この瞬間に彼女をまた苦しめている。俺はすぐにその場に膝をつき、彼女が少しでも楽になるよう、抱える腕の位置をずらして体を支えた。



「大丈夫、大丈夫だから。海緒、落ち着いて」

『私、は……っ……待ってくれてる翔、先輩を、裏切ったっ……ごめっ……ごめんなさいっ……』

「裏切ってない。謝る必要なんて、どこにもないんだ。大丈夫だから、な?」



何度も何度も、言い聞かせるように言葉を重ね、
彼女の背中を優しくさすり続ける。


けれど、どれだけ宥めても、どれだけゆっくり呼吸するように促しても、彼女のパニックは収まる気配がない。


むしろ、瞳に溜まった涙が溢れるたびに、彼女の呼吸はさらに浅く、速く、不規則になっていく。



(……まずい、これ以上は……)



真っ白になった彼女の顔を見て、
俺の心臓は今までにないほど激しく警鐘を鳴らした。


今までの「待つ」という選択が、
彼女をここまで追い詰めていたのか?


自分の無力さと、目の前で壊れてしまいそうな愛しい人への焦りで、俺の指先がわずかに震えた。