5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。




俺の腕の中で、海緒が消え入りそうな声で俺の名前を呼んだ。



『……あの、翔先輩……』

「ん?」



なるべく動揺を見せないように聞き返した俺に、彼女は胸を締め付けるような決死の表情で、最悪の事実を告げた。



『私……佐原先輩とキス……してしまいました。ごめんなさい……っ……』



その言葉が、心臓に冷たい杭を打ち込む。
……言わなければ、よかったのに。


そうすれば、俺はいくらでも知らないふりをして、優しい先輩のままでいられた。


彼女の唇に残ったあいつの痕跡を、見なかったことにして、俺たちの関係を守ることもできたはずなのに。

あまりに正直で、あまりに不器用な告白。

複雑な感情が渦巻き、胸の奥がドロドロと焼けつくような感覚に陥った……その時だった。


彼女の大きな瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。


俺の服を濡らすその涙を見た瞬間、
渦巻いていたモヤモヤとした嫉妬は、霧が晴れるように消えていった。


残ったのは、ただただ愛おしくて、
今すぐ抱きしめてやりたいという衝動だけだ。


キスの事実よりも、それを俺に隠し通せないほど、彼女が俺を信じ、そして自分を責めている……その事実に、俺の悲しみは呆気なく崩れ去った。



「……泣くな。謝らなくていい」



俺は、彼女をさらに強く腕の中に引き寄せた。


あいつに触れられたことが、どうしようもなく悔しくて。
でも、その報告を涙ながらにしてくれる彼女を、俺はもう、絶対に離したくないと思った。