5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



佐原の部屋を後にし、腕の中に収まった海緒を抱えて、静まり返った廊下を歩く。


羽のように軽い彼女の体温が、
腕を通して俺の胸に伝わってくる。



(……海緒は、佐原といた方が幸せなんだろうか)



そんな思考が、澱(おり)のように心に溜まっていく。
あいつは強引で、なりふり構わず感情をぶつけられる。

それに比べて俺は、彼女の成長を願うあまり、一歩引くことしかできない。


もし彼女が、あいつのあの熱量を「必要」としているのだとしたら、俺が今していることはただの余計なお世話なんじゃないか……。


答えの出ない問いに、腕に込める力が無意識に強くなった、その時だった。



『……ん……あれ、翔……先輩……?』



腕の中で、海緒がゆっくりと瞬きをした。
まだ夢の中にいるような、とろんとした瞳が俺を捉える。



「悪い。起こしたか」



なるべく声を殺して、いつものトーンで語りかける。

意識がはっきりした彼女の瞳に、不安や戸惑いの色が混じるのを見て、俺の胸はまた少しだけ痛んだ。


彼女をこんなに不安にさせているのは、佐原なのか。それとも、彼女の隣に立つのを躊躇(ためら)っている俺なのだろうか。