佐原の表情から、ようやくあの刺すような殺気が消えた。
俺も、知らず知らずのうちに止めていた息を吐き出し、
心のどこかで安堵していた。
「……分かった、分かったよ海緒ちゃん。だから、もう泣かないで、ね? せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうよ」
海緒に向ける佐原の顔は、いつもの軽薄で、それでいて優しい「先輩」のそれだった。
けれど、一転して床に這いつくばる女たちに向けた視線は、凍りつくほどに冷たく、鋭い。
「海緒ちゃんに免じて、もうこれ以上のことはしないけど。俺も翔も、お前らのこと許してないし、許す気なんてないから」
女たちが何か言い訳をしようと口を開きかけるが、
佐原はそれを許さなかった。
流れるように、けれど一言一言に逃げ場のない圧力を込めて言葉を紡いでいく。
「……次、海緒ちゃんに手を出したら、その時は本気で殺るから。この男たちにも、金輪際近づくなって伝えろ。分かったか」
もはや戦意を喪失したのか、絶望に打ちひしがれたのか。女たちはだらしなく床に座り込んだまま、幽霊のように小さく頷いた。
それを見届けた、次の瞬間だった。
俺のすぐそばにいた海緒の体が、
糸が切れた人形のように、ふらっと大きく揺れた。
「……海緒っ!」
俺は慌てて手を伸ばし、その華奢な体を、壊れ物に触れるような手つきで優しく受け止めた。
張り詰めていた緊張の糸が、ようやく解けたんだろう。
俺の腕の中で意識を沈めていく彼女の重みを感じながら、俺はもう二度と、この温もりを危険に晒さないと自分に深く誓った。
