「いい香り……」
ドレスの裾を整え、膝を抱え込むようにして花壇の前に屈む。
庭の一角にある花壇に咲くバラは、私が生まれたときに両親が植えてくれたものだ。
物心つくと自分で手入れをするようになり、大切に育ててきた。
いつかここのバラを増やしてバラ園を造ることを夢みている。
「ローズ、またここにいたの?」
大好きな人の声がして、私は顔をあげる。
「エリオット様、すみません。つい夢中になってしまって」
「ううん、ローズは本当にバラが好きだね」
「でも、約束の時間も忘れてしまうなんて」
「大丈夫だよ。そんなローズも好きだから」
エリオット様は私の隣に屈んで目線を合わせてくれる。
そして優しく微笑み、いつものように頭を撫でてくれた。
ヴァドレット伯爵家のご子息、エリオット様。私の愛しい婚約者。
この優しい笑顔をもうすぐ見られなくなると思うと、すごく寂しい。
「私も、エリオット様が好きです」
「ありがとう。嬉しいよ……。でも、寂しくなるね」
少し悲しそうにするエリオット様に、ずっと傍にいたいと、思わず言いそうになる。
でも、私は行かなければならない。
目覚めた特別な力で、この国と人々を救うために。
――聖女の魔力
私がその力に目覚めたのは一ヶ月前、学園の授業で校庭にいる時だった。
突如、空から身を震わすほどの大きな咆哮が聞こえ、空を見上げた時にはドラゴンが炎を放っていた。
辺り一面を覆いつくすほどの炎が吹き荒れる。
ドラゴンはすぐに、追っていた討伐隊により倒されたが、学園は悲惨な状態になっていた。
校庭の木々は焼け焦げ、火傷を負った生徒が大勢いた。
中には意識がない生徒もいる。幸い私は軽い火傷を負った程度だった。
その惨劇に立ち尽くしていた時、体の奥が熱くなるのを感じる。
全身を熱が巡る。
瞬間、溢れた熱は光となって学園全体に放たれた。
暖かな光が学園全体を覆う。
火傷を負った生徒は何事もなかったかのように回復し、焼け焦げた校庭の木々、校舎でさえ修復されていた。
全員が安堵する中、先生は私を見てひどく驚いていた。
すぐに魔力測定に連れて行かれたと思えば、その日のうちに王宮へ呼び出され聖女認定されたのだ。
癒しの魔力を持ち、人、物、植物、全ての物質において回復魔法が使える聖女という存在は、ここ何百年も現れていない。
私が聖女の力に目覚めたことにより、ずっとこの国に脅威をあたえている魔王を討伐するための勇者パーティーが結成された。
今まで何度も勇者パーティーが魔王討伐に向かっていたが、帰ってきた者は一人もいない。
けれど、回復魔法が使える聖女がいれば今度こそ魔王討伐が果たせるのではないかと、その期待を一身に背負うことになった。
五日後、私は勇者パーティーの一員として魔王討伐へと旅立つ。
「ローズ、気を付けて。必ず帰ってきてね」
「はい」
「これは無事に帰って来られるように、お守りだよ」
エリオット様はポケットからペンダントを取り出すと私の首にかけてくれる。
胸元で輝く赤い石はバラの形をしていた。
「綺麗……ありがとうございます」
「ローズが帰ってくるのをずっと待ってるから」
本当に生きて帰ってこられるかはわからない。
でも私は絶対ここに帰ってくる。帰ってエリオット様と結婚する。
そう、思っていたのに――。
出発の前日、ヴァドレット伯爵家から書簡が届いた。
それはエリオット様との婚約破棄を告げるものだった。
どうして? エリオット様はそんなこと一言も言っていなかった。
そんな素振りはまったくなかった。
待っていると言ってくれたのに。
書簡には、いつ帰ってくるかわからない、帰ってくるかすらもわからない令嬢と婚約を続けることはできないと書かれていた。
もっともだと思った。
エリオット様は伯爵家の跡取りだ。学園を卒業したらしかるべき令嬢と結婚し伯爵家を継ぐだろう。
そもそも、男爵家の私とは釣り合っていなかった。
これは仕方のないことなんだ。エリオット様にとってもそのほうがいい。
落ち込む自分に言い聞かせた。
悲しんでなんていられない。
私にはやるべきことがあるのだから。
エリオット様への想いは私の心の中だけに留めておく。
もらったペンダントを握りしめ、私は前を向いた。
勇者パーティーの一員として王都を出発した私は、魔王城までの道のりで様々な魔物と対峙した。
聖女の魔力に目覚めてから約一ヶ月、パーティーメンバーの三人と必死に鍛錬を積んだ。
回復魔法を安定して使えるように毎日訓練した。
その成果もあり旅は順調に進んでいる。
「ユリウスさん、右前方からも魔物が!」
「ああ! 僕が前に出る。ローズは後ろに――ケイレブ、そっちは任せた」
王宮騎士団に所属する、真面目で優秀なユリウス。
正義感が強く、誰よりも実直だ。
ドラゴン襲撃の時に討伐隊として学園に来ていて、私のことを見ていたらしい。
騎士団の討伐が間に合わず、学園に被害を与えてしまったことを悔やんでいたが、私のおかげで大事に至らなかったと感謝された。
みんなを引っ張ってくれる、心強い人でもある。
「ローズ、あなたは結界の中に! ここで後方からの魔物にも注意しておいて」
「はいっ」
ジェシカは防御魔法に長けた魔法使いだ。いつも冷静な判断をしてくれる。
騎士団には所属していないものの討伐隊に同行したり、王族の護衛などをしている。もちろん戦闘もできる。氷魔法を使った遠方からの攻撃が得意で、ほとんど戦闘のできない私と後衛として勇者パーティーを守る役目を担ってくれている。
みんな、頼りになる仲間だ。
「ユリウスさん、腕どうですか? 痛みますか?」
「ありがとう。大丈夫だ。ローズの回復魔法は本当によく効く」
日も沈み、魔物の襲撃が落ち着いたところで野営をすることにした。
はじめは気を張ってしまい、ほとんど眠れなかった野宿もだいぶ慣れてきた。
「私、みなさんに守られてばかりで何もできません」
「そんなことないわ。あなたがいるから私たちは安心して戦うことができるのよ」
「ですが……」
「気にするな。ローズ、お主はそれでよいのだ」
川で捕まえた魚を焼きながら、ドワーフのケイレブが優しく声をかけてくれる。
会ったときは少し怖いなと思っていたけれど、誰よりも優しい人だった。
ケイレブは普段、冒険者として世界中の魔物を討伐している。
そして長い人生のなかで何人もの友人が魔王討伐へ行き帰ってきていない。
今回、勇者パーティーが結成されると聞き自らメンバーに志願した。
「明日、ついに魔王と対峙することになる。ここはわしが見張っておくからみなはしっかり休むがよい」
「でも、それではケイレブさんが休めないのでは」
「わしは慣れておる。大丈夫じゃよ」
「ありがとうございます」
「いつも悪いなケイレブ」
「ありがとね」
この森を抜ければ魔王城はすぐそこだ。
五年かけてやっとたどり着いた。
ここまでの道のりも四人でそれぞれ役割を果たし、順調に進んでこれた。
きっと、この仲間なら今まで成し遂げられなかった魔王討伐を果たすことができる。
そう信じている。
私はお守りとしてずっと身に付けている、エリオット様からもらったペンダントを握りしめて眠りについた。
「ここが、魔王城……」
今まで、どんな魔物と対峙した時にも感じなかった禍々しい魔力を纏っている。
全員、緊張感を高め中へと入っていく。
大きな扉に螺旋階段、大理石の床が天井から入り込む光を反射していた。
瞬間、視界が真っ暗になり先のない暗闇が広がった。
「みんな! 離れないで!」
ユリウスの指示の下、私を中心に三人が背を合わせ戦闘態勢に入る。
徐々に暗闇から色のない真っ白な世界へと変わっていく。
そして目の前には人間よりもはるかに大きく、醜悪で恐ろしい姿の魔王が立ちはだかっていた。
魔王は容赦なく私たちに襲い掛かってくる。
漆黒の羽を広げ、迫りくる。鋭い爪を振りかざし魔力でできた刃を放つ。
正面から立ち向かうユリウスとケイレブ、後方から攻撃を仕掛けるジェシカ。
魔王の攻撃を避けながら必死に立ち向かっている。
私は、ジェシカが張った結界の中で攻撃を受けた彼らの傷を癒すことしかできない。
その時、魔王が放った刃が背後からジェシカめがけて物凄いスピードで真っ直ぐに向かってきた。
咄嗟に結界の外に飛び出し、ジェシカの前に出る。
けれども私にそれを回避するすべはない。
「「「ローズ!」」」
胸を貫かれる、そう思った瞬間、――パリンッ
弾ける音がして吹き飛ばされた。
ひどい衝撃はあったものの、貫通はしていない。
ユリウス、ジェシカ、ケイレブ、が私のところへ駆け寄ってくれる。
私は痛む体を奮い立たせ立ち上がると、三人に今まで以上に魔力を込める。
「これは……」
「自分の中に感じたことのない魔力を感じるわ」
「強化魔法じゃ」
三人の体が光に包まれたところで私は魔力の渇きを感じ、そのまま意識を手放しそうになる。
だけどその時、不思議とエリオット様の顔が浮かんだ。
ここで気を失うわけにはいかない。最後の最後まで、私にできることがあるはずだ。
「私がみんなを守る。――だから、後ろは振り向かないで」
絶対に、生きて帰る。
――――
――
―
◇ ◇ ◇
沈んでいた日はいつの間にか登り、傷だらけの身体が太陽の光に照らされる。
もう、傷を癒す魔力は残っていなかった。
重い身体を引きずるようにゆっくりと歩く。
それでも、みんな清々しい表情をしていた。
「ついにやったんだな」
「まだ、実感がわかないわ」
激闘の末、私たちは魔王を討った。
全員、身体はボロボロだ。
「すみません、みなさん。私の魔力が残っていれば……」
「ローズ、謝るでない。この傷は清々しい痛みじゃ」
「ここらで少し休もう」
ユリウスがみんなの様子を気にしながら声をかけてくれる。
木陰に腰を下ろし、それぞれ身体を休めていた。
私は首にかけてあるペンダントを握りしめる。
石は砕けて跡形もなく無くなってしまった。
エリオット様からもらった大切なお守り。石が無くなってしまったことは悲しいけれど石のおかげで私は助かった。立ち向かうことができた。
そして、目的を果たすことができた。
「もう、いつまでも想いにすがっていても仕方ないわよね」
ペンダントを外そうとした時、石座の内側に小さな紋章が描かれていることに気づく。
なんだろう。こんな紋章があるなんて知らなかったし、エリオット様も何も言っていなかった。
私は躊躇しながらも紋章に触れる。
するとペンダントから、懐かしい、愛しい声が聞こえてきた。
『ローズ、君がこの音声を聞いているのかはわからない。けれど僕は、自分の気持ちをこのペンダントに託したいと思う』
そこにはエリオット様の想いが込められていた。
私が魔王討伐へ行くことが決まったとき、本当は行って欲しくないと思ったこと。
でも、私が聖女の力に目覚め、この国を救いに行くことを止めることなんてできない。
だから本当の気持ちは伝えず見送ろうと思ったこと。
その後、両親から婚約を破棄すると告げられたが、私に言い出せないことを後悔していること。
『僕は、ローズのことを誇りに思ってる。周りが何と言おうと一生ローズだけを愛し続ける。ずっと君の帰りを待ってるよ』
自然と涙が溢れていた。
出発までの間、エリオット様は私が魔王討伐へ行くことの話をあまりしなかった。
きっと、私を困らせたくなかったんだろう。
だからこのペンダントの紋章のことも言わなかったんだ。
それでも、ペンダントに想いを込めずにはいられなかったエリオット様の気持ちを想像すると胸の奥が苦しくなる。
今すぐ帰ってエリオット様の元へ行きたい。
私も同じ想いだと伝えたい。
でも、私たちはまだやるべきことが残っている。
しっかりと体力を戻しながら魔王城からほど近い街へとやってきた。
この街は魔王襲撃により壊滅状態に陥っている。
魔王城に向かっている間、いくつも悲惨な状態の街を通ってきた。
無事に魔王を討伐した後は、街を再建しながら帰ろうとみんなで話し合って決めていた。
「ローズは怪我をしている人たちを治すことを優先して。ジェシカ、ケイレブ、僕たちは街の修復をしよう」
聖女の力があるといっても、すぐに全てを元通りにすることはできない。
動ける街の人たちと共に再建に向けて尽力した。
そして次第に街は明るくなり活気を取り戻しつつあった。
負傷しながらも街に留まり必死に生きながらえてきた人たち、魔王や魔物からなんとか街を守ってきた自警団、全ての人たちが尊く思える。
そんな人たちと出会い、たくさんの笑顔を見ることができて本当に幸せだった。
エリオット様が言ってくれたように、自分を誇りに思うことができた。
◇ ◇ ◇
「国王様より、書簡が届いております」
五つ目に滞在している街で、領主様から書簡を受け取った。
勇者パーティーが魔王を討伐し、倒壊した街を再建して回っていることは国中の噂になっている。
この街にいることを知った国王が書簡を送ってきたそうだ。
「ユリウス、なんて書いてるの?」
「ちょっと待って。今確認する」
そこには、魔王討伐、及び街の再建に対する褒美について書かれていた。
全員に一律、生涯生活するには十分過ぎるほどの褒賞金、それぞれに名誉勲章、そして――
「聖女ローズは第一王子との婚姻?!」
「まあまあまあ!」
「なんと」
「え……」
王都に戻ってくればすぐに婚姻を結ぶ手筈にすると記されていた。
「すごいじゃないかローズ」
「ローズが未来の王妃様になるのね」
「きっと良い妃になるじゃろうな」
「そんな、私なんて……」
突然の通告に困惑した。
何かしらの褒美があることはわかっていた。
それがまさか、第一王子との結婚だなんて思ってもみなかった。
「王子との結婚、不安なの?」
「何度か第一王子の護衛についたことがあるけど、私みたいな一介の魔法使いにも敬意を払ってくれる素敵な方だったわよ?」
「第一王子の悪い噂は聞いたことがないのう」
みんなは私を気遣ってか、不安を取り払おうと声をかけてくれる。
けれど、頭に浮かぶのはエリオット様の優しい笑顔だった。
「私にはもったいないほど、とてもありがたいお話しです。でも、ずっと想い続けている方がいるのです……」
ジェシカは俯く私の背中を優しく擦ってくれる。
「私、ローズにそんな相手がいるなんて知らなかったわ」
「出発前に婚約破棄されているので……」
婚約破棄されてから、エリオット様のことは忘れようと思っていた。
けれど忘れることはできなかった。
だから気持ちに蓋をした。
でも、ペンダントの音声を聞いてその蓋も開いてしまった。
「でも、もう八年も前のことでしょ? 相手は伯爵家の跡取りでしょ? さすがに結婚してるんじゃないかしら……」
「そうかもしれません。でも、彼を想ったまま王子と結婚なんてできません。だからといって王子との結婚を断るなんて無礼なことをするわけにも……」
どうしたらいいのかわからない。
結ばれることのない相手を想い続けていくのか。
想う相手がいながら王子と結婚するべきなのか。
「ローズ、私はあなたが決めたことを尊重するからね」
「うん。ローズがしたいようにすればいいと思う」
「わしらはこの国を救ったんじゃ。無礼などと気にすることはない」
みんな、私に寄り添ってくれる。私の気持ちを尊重してくれる。
王都に戻るまでによく考えてみることにした。
魔王城から遠い街になるにつれ、被害は少なく、むしろ魔王を討伐したことで、より活気に満ちていた。
どこに行っても歓迎され、もてなされ、いろいろな人と関わった。
「勇者パーティーのみなさん、ありがとうございました!」
「また、いつでもこの街にいらしてください」
最後の街を出るとき、たくさんの人が見送りに集まってくれた。
そして、花屋の女性が感謝のしるしにと全員に花束を渡してくれる。
「聖女ローズ様、これをどうぞ」
私は真っ赤なバラの花束をいただいた。
「とても綺麗なバラですね。ありがとうございます」
「これは王都にあるバラ園から直送で取り寄せたバラなんですよ」
「王都にあるバラ園?」
以前、王都にはバラ園はなかった。
一番近いのは郊外にあるバラ園で、王都の花屋がそこから仕入れてたものを売っていたはず。
「三年前にヴァドレット伯爵のご子息がバラ園を造ったのですよ」
「っ……!」
エリオット様だ……。
三年前ということは、魔王を討伐したあとすぐにバラ園を造ったのだろうか。
私の帰りを待ってくれているのかもしれない。
そんな都合のいいことが頭に浮かぶ。
「ヴァドレット様は、お一人でバラ園をされているのでしょうか。それとも、ご夫婦で、されているのでしょうか……」
「一人でされてるよ。もういいお年なのに結婚もしないでバラに夢中でねぇ」
結婚、してないんだっ!
その言葉に鼓動が早くなるのを感じる。
街を出たあと、私は誰よりも早足で歩く。
さほど速くはなっていないけれど、はやる気持ちを抑えられなかった。
みんなには、やっぱり王子との結婚は断ると伝えた。
褒賞金も名誉もいらない。
私はただ、エリオット様のところへ行きたい。
王都に着き、みんなが王宮へ向かう中、私はバラ園があるという場所まで走る。
国王様には上手く言っておくからと、見送ってくれた。
最後まで頼りになる、最高の仲間だ。
懐かしい、見慣れた街をひたすら走る。
バラ園があるのは、私の家と、ヴァドレット家のちょうど間にある小さな公園だったところ。
エリオット様が公園を買い取り、バラ園にしたそうだ。
公園の入り口にはガーデンアーチがあり、綺麗なつるバラが咲いていた。
一旦立ち止まり、大きく深呼吸をしてからアーチをくぐる。
ゆっくりと奥へと歩いて行く。
たくさんの種類のバラが咲いているけれど、一番多いのは私が好きな赤いバラだった。
そして驚いたのは、本当によく手入れされているということ。
一人でここまで育てるのは大変だったに違いない。
この、綺麗な空間を一歩一歩かみしめながら歩く。
愛しい人の姿を探しながら。
公園の中央まで進んだところで、見慣れた花壇を見つけた。
「これは、私の……」
私が生まれた時に両親が造ってくれた花壇がそのままの姿であった。
花壇はそのままでも、そこに咲くバラは一際大きく、あの頃よりもさらに美しく花を開かせている。
「エリオット様が、育ててくれてたんだ」
ここに花壇を持ってくるのも大変だっただろう。
花壇のバラに見入っていたとき、土を踏む足音が聞こえた。
その足音は少し遠くで止まる。
私はゆっくりと振り返った。
「エリオット様」
そこにはずっと会いたかった大好きな人がいた。
八年前と比べると随分と大人びたエリオット様は、ひどく驚いた顔をして私を見ている。
「ローズ……? どうして」
「遅くなりましたが、帰ってきました」
「うん……。きっとローズなら魔王討伐をやり遂げると信じていたよ。勇者パーティーがもうすぐ帰ってくることも噂になっていて、知っていた。それと、聖女が第一王子と結婚することも……」
結婚の話も噂になっていたんだ。
エリオット様は私が王子と結婚すると思っているのだろう。
帰ってきたことを喜んでくれてはいる。
でも、寂しそうな、悲しそうな、そんな表情をしている。
「王子との結婚は、お断りすることにしました」
「えっ、どうして?」
「私はエリオット様が好きです。これからずっとエリオット様の傍にいたいのです」
「ローズ……僕で、いいの?」
「エリオット様がいいのですっ」
肩を震わせ、今にも泣きだしてしまいそうなエリオット様の元へ駆け寄る。
そして勢いよくその胸に飛び込んだ。
エリオット様はぎゅっと抱きとめてくれる。
久しぶりに感じるエリオット様の体温に私も涙が滲む。
ずっと、ここに帰ってきたかった。
やっと、帰ってくることができた。
私は優しい温かさに包まれ、幸せをかみしめた。
「おかえり、ローズ」
「――ただいま、エリオット様」



