あと30日で、他人に戻るふたり

定時に上がれたから、今日は夕飯も作れるしまだ残っているダンボールの片付けもできそう。

そんなことを考えながら、足取り軽く駅からホームへと降り立った。


スーパーで三日分くらいの食材をまとめ買いし、小脇に抱えてマンションへ帰る。

帰宅する頃には日が沈んでいた。


冷蔵庫に食材をしまいながら、少しだけ考える。


────またパン、なんだろうな。

この家で彼が食事らしい食事をしているのを、一度も見たことがない。
見たことがあるのは、空になったパンの袋のみ。


急に思いついたわけでもないし、頼まれたわけでもない。

ただ、目の下にクマを作ってもなにも感じてなさそうなあの姿を思い出すと、このままは違う気がした。


「……まあ、いいよね」

小さくつぶやいて、食材を取り出した。


手に取った食材を切り分け、フライパンに油をひいて、火をつける。

じゅ、と音がして、少しだけ安心する。

静かな部屋に、料理する音だけがじんわりと広がった。



しばらくして、玄関のドアが開く音がする。

「……ただいま」

「おかえりなさい」

自分でも少し驚くくらい、自然に言葉が出た。


キッチンに立ったまま振り返ると、彼は一瞬だけ動きを止める。

「……いい匂い」

そうつぶやく彼の手からコンビニの袋がぶら下がっているのを見て、少しだけ納得する。
あれにはたぶん、パンが入っているはずだ。


こちらを眺めながらカーディガンを脱いだ彼が、サイドテーブルに袋と鞄をを置いてすぐこちらへやってきた。

匂いにつられてきたらしい。


「……慣れてる手つきだ」

「まあ、ひとり暮らし歴もそこそこ長いので。人並みには」

「へぇ」

冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して、後ろで飲んでいる。

お皿を二つ並べて、出来上がった料理をよそう。