あと30日で、他人に戻るふたり

私は一度、資料から視線を外す。


「率直に言うと、不安ですよね」

言葉にすると、男性が少しだけ顔を上げた。

「今までと変わるのは、誰でも怖いと思います」


正解を言うよりも、先に男性の気持ちに立って思いを寄せる。

これでいいのかは分からないけれど、“自分ならこうしてほしい”“こう言ってほしい”、それをなるべく言葉にしてあげたい。


数秒の沈黙のあと、男性は小さく息を吐いた。

「……そうなんですよ」

やっと、言葉がほどけてくれた。


そこからは、少しずつ話を聞いた。

客層のこと。
時間帯のこと。
これまでの売上の波。


全部を理解できるわけじゃない。

でも、今回きっと勇気を出してきてくれた男性の気持ちを、無視することはできない。


「もしよければ」

私は資料を引き寄せながら続ける。

「この位置に、少し視線を引く仕掛けを入れることはできます」

指で示したのは、通路の角。

「サインや、ちょっとした装飾で、流れを引き込むことは可能です」


設計そのものは、どうしても変えられない。

でも、その先にやり方はいくらでもある。
可能性を探ることは、一緒にできる。