あと30日で、他人に戻るふたり

ゴミ袋を持ってふたりで外に出る。

内廊下は、空調の効いた一定の温度で、朝なのか夜なのか分からない。


そのままエレベーターへ向かおうとしたら、手元がふっと軽くなる。

視線を落とすと、さっきまで自分が持っていたはずのゴミ袋が、彼の手に移っていた。

「……ありがとうございます」

「うん」

それだけで、会話は終わる。

なのに、なぜか少しだけ、空気がやわらいだ気がした。


引っ越しで出てきた大きなゴミ袋を二つ、彼がゴミ捨て場に置いた。

まだ部屋にダンボールは残っているけれど、大きなものはだいぶ片付いてきた。


ゴミ捨て場から出てきたところで時間を見ると、乗りたい電車の時刻が迫っていた。

隣に立っている彼を見上げる。

「……じゃあ、行ってきます」

「うん。いってらっしゃい」

いつものやりとりをして、軽く視線を向けてから私は駅の方へ歩き出す。


数歩進んだところで、

「行ってきます」

背後から、声が落ちた。


振り返ると、彼はもう反対方向へ歩き出している。

こちらを見る様子もなく、そのまま遠ざかっていく。


「……いってらっしゃい」

少し遅れてつぶやいた声は、届いたのかどうか分からなかった。




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