あと30日で、他人に戻るふたり

席に戻っても、すぐには画面に集中できなかった。


────『その顔、いいね』

────『そんな状況、放っておかない』


さっきの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。


……だめだ。

小さく息を吐いて、頬を軽く叩く。
なんとなく頬だけじゃなくて顔全体が熱い。


今は仕事。仕事しなきゃ。集中。


視線を落として、パソコンの画面を見つめた。

開いているのは、さっきまで作っていた資料だ。
機能説明を並べただけの、どこかぼやけた内容。


“誰に”“何を”を、ちゃんとしなければ。


頭の中で、もう一度なぞった。

「……誰に」

ターゲットをひとつに絞る。
利用シーンを具体的にする。

“便利です”じゃなくて、“どんな時に助かるか”に言い換えていく。


営業がそのまま使える言葉に変換する。

打って、消して、また打って。
さっきまで気づかなかった穴が、次々と見えてくる。

気づけば、資料の構成そのものが変わっていた。


ひと息ついて、スクロールしてみて全体を見直す。


────さっきより、ずっといい。

小さくうなずいて、ファイルを保存した。


そのままチャット画面を開き、ファイルを送る相手の名前を見て、すぐに指が止まった。

でも、思い直してすぐに打ち込む。


『資料修正しました。一度見ていただけますか?』

送信ボタンを押す。

画面に表示された“既読”の文字を見て、なぜか少しだけ心臓が落ち着かなくなる。


……仕事、なのに。

自分でも分からないまま、私はそっと息を吐いた。





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