あと30日で、他人に戻るふたり

「あ、そうだ」

まだ今の言葉に頭が追いついていないのに、彼は何事もなかったみたいに、話を切り替えてきた。

「どう?同居人は。大丈夫?」

突然差し込まれた話題に、息を飲む。

「うまくかわせてる?」

声だけ聞くと楽しげなのに、視線だけが少しだけ鋭い。
瞳の奥にある“なにか”が、私には分からない。


どう答えるのが正解なのか、考えても出てこなかった。

「……社交的な人じゃないので、特に問題はないです」

「ふーん」

興味なさそうに返してから、少しだけ顔を寄せてくる。

「────とはいえ男だよね?」

分かっているくせに、聞いてくる。

「……はい」

「ほんとに大丈夫?」

さっきと同じ言葉なのに、距離のせいか、意味が違って聞こえる。

「……大丈夫、だと思います」

そう答えると、八代さんは少しだけ目を細めた。


「“だと思う”か」

なんとなくため息が混ざったような声でつぶやいた彼は、ふっとそこで笑った。

「俺だったら、そんな状況、放っておかないけど」

冗談みたいな言い方。
でも、どこまでが冗談なのか分からない。


「……え?」

「いや、なんでも」

と、あっさり引いていった。

こちらはさっきから胸が落ち着かないというのに。原因を作った彼は、いとも簡単に離れていく。


「ま、気をつけなよ」

それだけ言って、壁から体を離す。

「じゃ、仕事戻ろ」

いつもの本来の軽さに戻って、先に部屋を出ていった。


残された私は、しばらくその場に立ったままだった。


今の、なんだったんだろう。
仕事の話の延長みたいに話していたれけど。

たぶん、違う。