あと30日で、他人に戻るふたり

お昼の眠気も覚めてきた頃、資料をまとめていると

「穂村」

と横から声が落ちてきた。

顔を上げると、八代さんが立っている。
今日も彼は相変わらず整っている。整っていないのを、見たことがない。

そんな八代さんから

「ちょっといい?」

と軽く手招きされて会議室の方を示される。
その仕草だけで、少しだけ気持ちが浮いてしまった。

「はい」

ノートとタブレットを持って勢いよく立ち上がる。


小さな打ち合わせスペースに入ると、八代さんは壁に寄りかかるようにして私に目を向けた。


「穂村。例の案件さ、これ営業的にどう売るつもり?」

いきなり本題。

軽く投げたようでいて、論点はずれていない。
技術の話だけでは通らないことを、最初から分かっている言い方だった。

“営業的に”という言葉に一瞬だけ引っかかる。
けれど、確かにその視点は必要だとも思う。


八代さんはそのまま私の持っているタブレットの画面を覗き込んできて、自然と距離が近くなった。

「機能は悪くないんだよ。でも、このままだと伝わらない」

とん、と指をタブレットに置かれ、私はなんとなく目を合わせられない。

「どういうところがですか?」

とりあえずそう聞くと、八代さんは少しだけ笑った。

「んー、全部」

言い方は軽いのに、逃げ場がない。