あと30日で、他人に戻るふたり

「お疲れ様です。すみません、さっきの不具合、挙動を見せてもらっていいですか?」

声をかけると、モニター越しに一人の男性の顔が上がる。
開発担当のひとりだ。

「ああ、いいですよ」


隣に少しスペースを空けてもらって、画面を覗き込む。
細かいロジックまでは追わない。でも、挙動はちゃんと分かる。

操作が進んで、数秒後。

画面が止まる。
……確かに、止まる。


「再現条件って、これだけですか?」

「ですね。今のところは」

彼がうなずいたのを見て、私は腕を組んで眉を寄せる。


影響範囲や、利用頻度。
この機能が止まったときの、ユーザーへの影響。

頭の中で、いくつかのパターンを並べていく。


「…この機能、優先度どのくらいでしたっけ」

と聞くと、彼はすぐに首を振った。

「そこまで高くないですね」

「やっぱり。そうですよね」

予想通りの答えに、組んでいた腕を解く。


「じゃあ、一旦ここ切りましょう」

言葉にすると、相手が少しだけ目を細めた。

「え、切るんですか?」

「はい。このまま出すと、全体の信頼性に影響が出ちゃいますから」

自分でも驚くくらい、迷いなく言えていた。

「他の機能は予定通りリリースできますし、影響範囲も限定的です。この部分は次フェーズで改修しましょう」

短く区切って伝えると、数秒の沈黙のあと、あちらが小さいうなずきが返ってくる。

「……了解です。それでいきましょう」


私はふっと小さく息を吐いた。

「ありがとうございます。営業側にはこちらから説明入れますね」

「はい、お願いします」


彼の返事を聞いてから、軽く頭を下げてその場を離れる。


席に戻るまでの間、さっきのやり取りを頭の中でなぞっていた。

正解かどうかは分からない。

でも、────決めるのは、ここしかないと思った。


椅子に座り直して、キーボードに指を置く。
今度は迷いなく、文章を打ち込めた。



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