あと30日で、他人に戻るふたり

“できれば”。
その一言に含まれている圧を、知らないわけじゃない。

私は一度画面に視線を戻し、スレッドを読み返す。

現行仕様で対応可能な範囲。
追加した場合の影響。
工数の増加。

頭の中で順番に整理していく。


────『開発だもんね、めんどくさそう』
朝、何気なく言われた言葉が、ふと浮かんでしまった。

……めんどくさいよ。

思わず、心の中で返す。


でも、だからといってそれをそのままにしておくわけにはいかない。

斉藤さんに向き直って、

「一度、整理します」

と言ってみると、彼は「うん、よろしくね」と軽く会釈した。

斉藤さんがいなくなったのを確認してから、ゆっくりとキーボードに指を置く。


全部を叶えるのは難しい。
なら、どこまでなら叶えられるのか。その線を引くのも、この仕事だ。

家で聞いたあの打鍵音とは違う、私の音はオフィスの賑やかなざわつきに、ゆるりと溶ける。

文字を打ち込んでいく。

〈現行仕様のままで対応可能な範囲を切り出せば、今月中に一部リリースは可能だと思います〉

少し考え、一拍置いてから続ける。

〈ただしフル機能対応は来月以降になります。優先順位を一度整理させてください〉