あと30日で、他人に戻るふたり

慣れない路線の電車に乗り、帰宅ラッシュより少し遅く乗ったからか座って帰れた。

ついウトウトしてしまい、なんとか意識を奮い立たせる。
駅名をちゃんと確認しながら乗らないと、まだ油断できない。


ついでに夕飯をどうするか、ちょっとだけ考える。

キッチン用品はまだダンボールの中だ。
でもちゃんと分けて入れてあるから、フライパンとかを出して簡単なものを作るくらいなら────今の私にはできるかも。


スマホが震えたので、画面をつけると『藍沢大地』という名前が表示された。

ああ、そういえば。
連絡手段はあった方がいいってことで、念のため連絡先は交換したんだった。

────こんな非日常なこと、ある?


そんなことを思いながら、通知を読む。


『遅くなる』
『ソファよろしく』
『設置場所は任せる』


ポンポンポン、と連続で来た。

完全に人任せだなあ、と眉を寄せつつ、『了解』と返してスマホを閉じる。


……相変わらず、適当な人だ。

短い文面なのに、どこか距離が近いような、遠いような。
命令っぽいのに、雑というか。

でも、不思議と嫌な感じはしない。


電車の揺れに身を任せながら、私は小さく息をついた。
とりあえず、帰ったらソファをなんとかしないと。


あの部屋に帰ることを思い出して、少しだけ気が重くなる。

────知らない男と同じ空間。
そう考えると、やっぱり普通じゃない。

でも。

「……まあ、いっか」

ぽつりと、小さくつぶやく。


本当に“いっか”なのかは分からない。
分からないけど、考えすぎても仕方がない。


電車は、静かに次の駅へ滑り込んだ。




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