あと30日で、他人に戻るふたり

優奈は頬杖をついて、まだなにか面白そうに私を眺めている。

「よく分かんない人とは一緒に暮らせないよ、普通は」

すかさず反論する。

「あのね、寝室に鍵をつけるって話も出たんだよ」

「そこは男女だからね?」

「でも────」

「うん?」

言いかけて、思わず笑ってしまった。

「絶対入らないって。全財産賭けるんだって。約束してくれたから」


一瞬、優奈がきょとんとしたように間を置く。
そして、ぶはっと盛大に吹き出した。

「ねぇー!絶対あとで気になるやつじゃん!それ」

「ならないよ!」

反射的に否定したのに、フォークに巻いたパスタは、またするりとほどけて落ちた。

「いや、なるね」

即答されて、私は顔をしかめる。

「なんでよ」

「だって美月さ、“どうでもいい人”の話、そんな顔してしないもん」

その一言に、ぴたりと動きが止まってしまった。


どんな顔をしていたのかなんて、自分では分からない。
でも優奈は迷いなく言い切ったので、そう言いたくなるような顔をしていたのだろう。


「まあ、とりあえず」

とくるっとフォークを回して、優奈がようやくパスタを口に運びながら続けた。

「ほんとに危なそうだったら、ちゃんと逃げなよ。すぐ連絡していいからさ」

「……うん」

今度は、ちゃんとうなずけた。
少しだけ、肩の力が抜けていた。


他人事みたいに笑って、でも最後はちゃんと心配してくれる。
そういうところが、優奈らしい。


「で?」

彼女はパスタを頬張ったまま、まだ終わらないらしい追求が続く。

「顔は?かっこいいの?」

「いや、だから────、このくだり、何回やるの?」


私が冷静に返すと、優奈はお腹を抱えて笑っていた。
一緒になって笑ってしまった。


こうして会社での私は、まだ、流されているままだった。




••┈┈┈┈••