あと30日で、他人に戻るふたり

「なんだ、やっぱり普通の部屋なの?」

「特に問題なく過ごせています。それで──」

「うん」

「社宅契約を、今月で終了したいと思っています。家賃補助とか、色々していただいてると思うのですが、もういりません」

「……えっ?個人で借りるの?それとも引っ越すの?」

「いえ、その……一緒に住むことになって」

「誰と?」


あちこちで電話のコール音や、パソコンの打鍵音、雑談が聞こえる中、私と課長の間だけ音が消える。


野崎課長だってバカじゃない。
一ヶ月前に私が「知らない男がいたんですよ!!」って大騒ぎしたのは覚えているはずだ。

課長が手に持っていた、さっき渡した異動願いのファイルがボトッと落ちる。


「えっ、あの…ちょっとしたら出ていくって言ってた人?なに?正式に一緒に住むことになったの?」

「────はい…」

「あらー。あららららら」


全部察したらしい。
課長のニヤニヤが止まらない。


そんなに“全部分かりました”みたいな表情でこっちを見なくても。

たぶん赤くなっているであろう顔をなんとなく課長から逸らしていたら、あちらは余裕そうに笑みを浮かべた。


「いやいや。全然構わないよ。穂村さんも年頃なんだし。いい人でよかったじゃないの」

「……はい」

課長、急にお父さん感出してくるじゃん。


背もたれに大きな身体を預けた課長が、どこか感慨深げに息をつく。

「……あの部屋、結果的には当たりだったんだなぁ」


そんな言葉を言われるとは思ってなくて。

私はどう反応していいか分からず、とりあえず苦笑いするしかなかった。



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