あと30日で、他人に戻るふたり

とぼとぼと自分のデスクに戻る。

もはや抜け殻。もう無理。もう仕事できない。あの部屋に今夜も帰ると思うとつらい。

でも、仕事は待ってはくれない。


いったん机に突っ伏して心を落ち着けてから、気持ちを切り替えてパソコンの電源を入れた。


起動音と画面が切り替わるのを眺めていたら

「おはよう、穂村」

と声をかけられた。


声を聞いただけですぐに分かる。勝手に胸が踊ってしまう。
法人営業部の、八代修さん。

顔を内側から整えて、笑顔で振り向く。

「おはようございます!」


ナチュラルなブラウンの髪に、すっきりとした短髪。
しっかりセットされていて、スーツがよく似合う高身長の彼は、私より年上で先輩だ。

部署は違うけれど、たまにこうやって声をかけてくれたりする。

今日も今日とてかっこいい。
神様、バランス間違ってませんか。


「さっき慌ててたけど、大丈夫だった?」

「……さっきですか?」

「エレベーターで声かけたんだけど、急いで降りてったから」

あっ、と朝のバタバタを思い出す。
あんなに意気込んでいったのに、課長に弾かれたなんて言えない。

「大丈夫ではないんですけど……、なんとかするしかないです」

「もしかしてあの部屋、早速なんか出た?」


身を屈ませて私の顔に近づいてくる。
周りに聞こえないように、声をひそめてくれているだけなのに、このシチュエーションはドキドキしてしまう。

こういうところで、いつも彼に翻弄される。


私も一緒になって声を小さめにして答える。

「なにも出てはいないんですけど、併行募集だったみたいで…」

「え?まさか、誰かいた?」

「はい…。見ず知らずの他人と同居することになってしまって……」

そこまで言って、どこまで話すべきか迷っているうちに先に尋ねられた。

「男?」