あと30日で、他人に戻るふたり

ざわついていたオフィスが、しん、と静まるのが分かった。

たぶん、みんなこちらに注目している。
それが分かって、はっと我に返ったけれど、もう引っ込めることもできない。

それに、私からしてみれば死活問題だ。


「あ、例の部屋?昨日だったんだっけ、引っ越し」

「課長!昨日、私ちゃんと言いましたよ!半休いただきます、引っ越しです、って!」

「ごめんごめん」

あはは、と笑っている課長を、全身全霊で睨む。
さすがに私の怒りを感じ取ったのか、咳払いをひとつすると椅子に座り直す。


「……で、なんだっけ?」

「だから!知らない男がいたんです!部屋の前に!鍵も持ってたし!」

私の騒ぎっぷりとは真逆で、課長の反応は「そうなの?」と薄い。

「えぇ、あそこって一般にも出てたの?ダブり案件?」

「それですぅぅぅ……」


もう、最後の方は私は崩れかけていた。


「まさかレアなケースを穂村さんが引き当てるとは…」

一応、課長はパソコンでなにか検索してくれている。
回り込んだ私も食い気味にパソコンの画面を見つめるも、表示されているのは私の情報のみ。

「なんとかしてください!」

「まあ、管理会社に問い合わせはしてみるけど…」

「昨日、彼もしてくれたんですよ」

「なんて言ってた?」

そこで、私は無意識にひと呼吸置いてしまった。
また流されそうな気がして、つい答えるのが遅れる。

「……キャンセルすると、違約金発生するって」