「いや、だって」
彼は持っていた書類を膝の上へ置いた。
「最初に、一ヶ月って約束したじゃん」
あまりにも迷いのない、早い返事だった。
悪気なんて、本当に一ミリもないみたいに。
彼がそう返してくるような予想はある程度はしていた。
それなのに。
ここまで好きにさせておいて。
こんな気持ちにさせておいて。
こんなふうに毎日一緒にご飯食べて、 笑って、 暮らして。
それでも。
“約束したから”で終わらせるんだ。
胸の奥で、ずっと押し込めていた感情が、一気に熱を持ち始める。
「約束はしましたよ、たしかに」
完全に戸惑っている顔をした大地さんの視線は痛いほど感じる。
でももう、自分が自分じゃない。
「だけど、そういうことじゃないんです」
「美月、ちょっと待っ…」
言いかける彼の言葉を遮った。
「じゃあ、大地さんの気持ちは?約束を守るだけ?それだけですか?」
しん、とリビングがより静かになる。
もう戻せない空気だけが、私たちの間に流れていく。
大地さんは、すぐには答えなかった。
ただはっきりと困ったみたいに眉を寄せて、一度だけ視線を逸らす。
「……そういうの、あんまり分かんない」
絞り出すみたいな声だった。
彼の返答に納得がいかなくて、聞き返す。
「分かんないってどういうこと?」
「いや、なんて言えばいいのか」
彼はそこで言葉を探すみたいに黙り込む。
「俺、自分の気持ちとかちゃんと考えたことなくて」
その瞬間、胸の奥が、音を立てて冷えていくのが分かった。
「じゃあそんなに簡単に優しくしないでよ」
言い逃げするみたいに、ソファから立ち上がる。
弾みで、彼の膝から新しい住まいの書類がはらりと落ちた。
でも、大地さんはそれを拾おうとしない。
動かないで座ったまま、私を見つめている。
「……もういいです」
この空気を作ったのは私なのに、この空気を切り捨てたのも私だった。
逃げ場はひとつ。寝室しかない。
後ろで大地さんが、なにか言おうとする気配がした。
でも結局、その声は聞こえなかった。
部屋のドアを静かに閉めると、大きく息を吐く。
────自分で自分の大切な時間を、消してしまった。
後悔だけが私を取り囲んだ。
彼は持っていた書類を膝の上へ置いた。
「最初に、一ヶ月って約束したじゃん」
あまりにも迷いのない、早い返事だった。
悪気なんて、本当に一ミリもないみたいに。
彼がそう返してくるような予想はある程度はしていた。
それなのに。
ここまで好きにさせておいて。
こんな気持ちにさせておいて。
こんなふうに毎日一緒にご飯食べて、 笑って、 暮らして。
それでも。
“約束したから”で終わらせるんだ。
胸の奥で、ずっと押し込めていた感情が、一気に熱を持ち始める。
「約束はしましたよ、たしかに」
完全に戸惑っている顔をした大地さんの視線は痛いほど感じる。
でももう、自分が自分じゃない。
「だけど、そういうことじゃないんです」
「美月、ちょっと待っ…」
言いかける彼の言葉を遮った。
「じゃあ、大地さんの気持ちは?約束を守るだけ?それだけですか?」
しん、とリビングがより静かになる。
もう戻せない空気だけが、私たちの間に流れていく。
大地さんは、すぐには答えなかった。
ただはっきりと困ったみたいに眉を寄せて、一度だけ視線を逸らす。
「……そういうの、あんまり分かんない」
絞り出すみたいな声だった。
彼の返答に納得がいかなくて、聞き返す。
「分かんないってどういうこと?」
「いや、なんて言えばいいのか」
彼はそこで言葉を探すみたいに黙り込む。
「俺、自分の気持ちとかちゃんと考えたことなくて」
その瞬間、胸の奥が、音を立てて冷えていくのが分かった。
「じゃあそんなに簡単に優しくしないでよ」
言い逃げするみたいに、ソファから立ち上がる。
弾みで、彼の膝から新しい住まいの書類がはらりと落ちた。
でも、大地さんはそれを拾おうとしない。
動かないで座ったまま、私を見つめている。
「……もういいです」
この空気を作ったのは私なのに、この空気を切り捨てたのも私だった。
逃げ場はひとつ。寝室しかない。
後ろで大地さんが、なにか言おうとする気配がした。
でも結局、その声は聞こえなかった。
部屋のドアを静かに閉めると、大きく息を吐く。
────自分で自分の大切な時間を、消してしまった。
後悔だけが私を取り囲んだ。



