あと30日で、他人に戻るふたり

「おはよう、穂村」

「おはようございます」

「あっ、美月おっはよー!どうだった?引越し先」

「ちょっとランチの時にでも!」

「穂村さん、おはよう。朝からすごい顔だよ?」

「おはようございます!先に!行かせてください!」


会社に着くなり何人かに声をかけられたけれど、私は見向きもしなかった。

満員のエレベーターをかき分け、我先にとフロアへ降り立つ。向かう先は最初から決めている。


足早に向かったのは────野崎課長のデスク。


メタボまっしぐらのわがままボディをねじ込んだ椅子が、いつもの音で軋んでいた。
そんな課長は、おそらく誰かが淹れてくれたであろうコーヒーをすすりながら、呑気に他の社員と談笑している。


「課長っ!課長ーっ!!!」

半ば怒鳴りながら乗り込むと、野崎課長は目を丸くして振り返った。

「えっ、な、なに!朝っぱらから元気だな、穂村さんは」

「おはようございます」

「うん、おはよう」

「あの────」

言いかけて、一瞬迷う。
でももう今言わないと、全部流されそうで。

思い切って顔を上げた。

「引越し先の部屋に、知らない男がいたんですよ!!」