「あ、美月」
名前を呼ばれるだけで、びくっと心臓が跳ねた。
「今日ちょっと早く出なくちゃいけなくて」
「……あっ、はい」
「コーヒーだけ保温してある」
私の分まで、ちゃんと。
もう当たり前みたいにそうしてくれているその事実が、さらに胸を締め付けてくるなんて。
嬉しいだけじゃなくて、寂しさも混ざりこんでくる複雑な感情に、振り回されっぱなしだ。
「じゃ、行ってきます」
大地さんは悔しいくらいに、普段通りだ。
足早に玄関に向かっていく音がして、私は気持ちの整理がつかないままその背中へ声をかける。
「大地さん」
スニーカーを履きかけていた彼が、目だけ私の方へ向けてきた。
急いでいるのか、返事もない。
「すみません、色々…」
なにもまとまってないまま呼び止めたから、支離滅裂な言葉が口をつく。
「アイロンも、コーヒーも…」
言いかけて、言い直す。
「ありがとうございます。いってらっしゃい」
伝えたいのは、これだと思ってちゃんと伝える。
大地さんは、スニーカーを履く手を止めたまま一瞬だけちゃんとこちらを見る。
それから、少し困ったみたいに眉を寄せた。
「…うん」
短く返して立ち上がる。
でも、ドアを開ける直前になって、ふと思い出したみたいに振り返った。
「今日、雨強いらしいから」
「え?」
「帰り、気をつけて」
それだけ言い残して、玄関のドアが閉まる。
私は洗面所の前に立ったまま、しばらく動けなかった。
••┈┈┈┈••
名前を呼ばれるだけで、びくっと心臓が跳ねた。
「今日ちょっと早く出なくちゃいけなくて」
「……あっ、はい」
「コーヒーだけ保温してある」
私の分まで、ちゃんと。
もう当たり前みたいにそうしてくれているその事実が、さらに胸を締め付けてくるなんて。
嬉しいだけじゃなくて、寂しさも混ざりこんでくる複雑な感情に、振り回されっぱなしだ。
「じゃ、行ってきます」
大地さんは悔しいくらいに、普段通りだ。
足早に玄関に向かっていく音がして、私は気持ちの整理がつかないままその背中へ声をかける。
「大地さん」
スニーカーを履きかけていた彼が、目だけ私の方へ向けてきた。
急いでいるのか、返事もない。
「すみません、色々…」
なにもまとまってないまま呼び止めたから、支離滅裂な言葉が口をつく。
「アイロンも、コーヒーも…」
言いかけて、言い直す。
「ありがとうございます。いってらっしゃい」
伝えたいのは、これだと思ってちゃんと伝える。
大地さんは、スニーカーを履く手を止めたまま一瞬だけちゃんとこちらを見る。
それから、少し困ったみたいに眉を寄せた。
「…うん」
短く返して立ち上がる。
でも、ドアを開ける直前になって、ふと思い出したみたいに振り返った。
「今日、雨強いらしいから」
「え?」
「帰り、気をつけて」
それだけ言い残して、玄関のドアが閉まる。
私は洗面所の前に立ったまま、しばらく動けなかった。
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