あと30日で、他人に戻るふたり

着いたら、まずはカーテンを買うための採寸をしなきゃ。
十七時過ぎに業者さんが来ることになっているから、家電の配置もそれまでに考えておかないと。

家具は今まで一人暮らししていたので足りている、はず。必要最低限は揃っている。

これから行くところは前に住んでいたところよりも、断然広い。だからこそ、部屋のバランスも見ないと。


楽しみな気持ちもあるけれど、不安な気持ちもある。


『なんかこの部屋だけ、いっつも人がすぐ出ていくんだよね。事故物件とかじゃないんだけどさ』


もう!課長のせいで!すぐ思い出しちゃう!
今夜眠れなかったらどうしてくれるの!


イライラしながらエレベーターを降りた。

足音はカーペットに吸い込まれ、音がしない。
風も雨も吹き込んでこない静かな廊下。

部屋数は、五戸。
住人同士が顔を合わせすぎない、ちょうどいい戸数だ。

どこを見ても綺麗なので、清潔感という点では合格。


廊下を少し進んだところで、誰かひとり立っているのが見えた。若い男性。


ダークブラウンの髪は少しだけ長めで、手入れされているのかいないのか分からない自然さだった。
下を向いてスマホをいじっているその姿は、気だるそうなのに妙に整って見える。

背が高い。たぶん、私より頭一個分くらい。
けれど圧迫感があまりないのは、ただそこに立っているだけ、という感じだからかもしれない。

私と違ってスーツケースはなく、片手にボストンバッグだけを持っている。


こちらの気配に気づいてはいるだろうが、まったく顔を上げない。


まあ、いいや。

あまり気にせず、手に持っていた鍵をドアに差し込もうとした。

その時、隣から突然同じような鍵が出てきて変な声が出た。

「えっ?」