あと30日で、他人に戻るふたり

夜も深まってきた時刻。


洗面所で歯磨きを終えてリビングへ戻ると、もう彼はすでに床に寝転がっていた。

仰向けになってスマホを見ている。


「……おやすみなさい」

一応声をかけてみると、こちらに視線が向いた。

「おやすみ」


こんな挨拶を、今日初めて会った男と交わすことになるとは。想像もしていなかった事態だ。


……信用は、していない。
それでも、同じ部屋で夜を過ごすことになるのは事実なわけで。

寝室のドアを閉めて、扉の向こうにいる“他人”の気配を感じながら部屋の電気を消す。


今日という一日だけで、これまでしたことのない経験をいくつもしてしまった。

本当に信じられない。


でも、それ以上に、信じられないのは────
この状況に、少し慣れ始めている自分だった。